七夕フェア第１弾



〜遠距離恋愛の法則〜



Side　Ｈ









忙しさにかまけ、ふと気が緩むとき。

何かが足りナイと思って。

それが何か考えようとすれば次の仕事がなだれ込む。



そしていたずらに時間が流れていった。



必要以上に休みを取らず、仕事に励んでいた訳ではないがそれしかする事がなかったので続けていれば、

傍から見ればワーカーホリックと捕えられたようでとやかく煩く言われる始末。

自分にしてみればこの仕事量ならたいした事ではないし、他人の言うことも気にしない。

”何時まで続ける”とは考えていない。いつも”今”を生きているのだから。






７月４日



次のデータに目を通そうと書類を持った瞬間、いきなり伸びて来た手に奪われた。

上司の存在は常に側にあったので、大して気にしていなかったのが敗因か。

ガンを飛ばすが目の前の女性…サリーは慣れたもので受け流すだけだ。

「仕事のし過ぎ。この仕事は急ぎでもないはずよ」

邪魔をされ少々腹が立ったが、

書類の中を流し読みするサリーを無視して別な書類を取るとまた画面へ目を戻した。

「まったく…また休暇潰して作業してるんだから。

ちゃんとお休み取ってくれないと私が上からお小言くらうのよ」

「必要最低限の休息は取っている」

よく言うわよ…

呆れたため息が横から聞こえる。

「私は貴方の上司で、保護責任者なのよ。少しは労ってくれてもいいんじゃない。ま、いいけれど…」



かつての大戦の中心に位置していたオレたちＧパイロットは、

戦後処理の一つとして上の方でかなり揉めていた。

未成年というのが最大の理由だ。

最終決定が下されず実に１年。最終的に保護責任者を着ける事で決着を得た。

デュオにはクロレツィア・ノインが、トロワにはレディ・アンが、カトルはウィナー家が。

そしてオレと五飛はサリー・ポーが。

基本的に宇宙警察機構・プリベンターへの登録・保護下に置かれ忙しい毎日を送っていた。



彼女の立場上を考えれば、これ以上借り…負担はかけたくないのだが。

それとこれとは話は別だ。

仕事をサボっているわけでもミスをしたわけでもないのだ。

とやかく言われる必要は無いはずだ。

「はい」

自分と画面の間に差し出された紙は休暇届。しかし氏名欄が自分になっていた。

「私ってば優しいでしょ」

何かをたくらんでいるような笑みに心底嫌になってくる。

「この時期にお休み上げる私に感謝してほしいくらいだわ」

なら、くれなくて結構…そんなことを言えばどんなお小言が待ち受けているか。

それだけは回避したいので黙っていることにする。

休暇期間：７／５〜７／１１

「………」

このオレに、一週間も休みを与え何をさせようというのだ。

「たまには良いんじゃない？」

彼女の言わんとしている事が分からず、視線を向ける。

「会いに行ってあげたら？」

いつもおどけた調子のサリーではなく、言い方を変えれば慈愛に満ちた、母親のような顔。

と言っても、「母親のような」は想像でしかないが。

会ってないのでしょう？と問われて、しかし答える事はなく。



何かが足りない



何が？



それは…



やっとパズルのピースが見つかったような、そんな感覚。

「今から行けば、会えるんじゃない？」

そう言って、サリーは一枚の切符を差し出した。

「いつもは向こうから来てくれるんだもの。

たまにはあなたから動いてあげても良いんじゃないのかしら？」

この年上の女性にはいつも勝てないと…いや同年代のヤツにもか、とヒイロは表情を緩めた。

Ｌ１⇔Ｌ２間の往復切符。

ふいに思い浮かぶのはあいつの顔。一度渇きを覚えると、満たされるまで満足できない。

仕事の量は相変わらずだが、最近は急ぎの仕事は入っていない。

まぁ、入ったところでサリーや五飛で充分だろう。

片付けるものはそうないが、とりあえず書類等はキャビネットにしまいこみ、

せっかくのサリーから好意に甘えることにして席を立った。

「あ、そうそう」

扉に手をかけたところでサリーは言った。

「切符は給与天引ね♪」

流石と言うべきか…。

ちゃっかりしているサリーのこの言葉に思わず苦笑してしまった。




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