SHINING STAR〜わたしだけの翔星〜8





「スザク！」
　覚えのある優しい声に、スザクはうっすらと目を開けた。
「ル…、ユフィ」
　心配げに覗いてくる瞳の色に思わず名前を挙げそうになったが、見えた髪の色に慌てて言い直した。
　どれくらい気を失っていただろうか。さまよう瞳の片隅に写った時計棟の針が実際はそれほど長い間では無かったのを教えてくれた。
「一体何があったのですか！？こんなに…酷い…」
　ユーフェミアがそっと肩に手をかけてくるが、今のスザクには構っていられなかった。
　相手はプロだ、女の子一人くらい短時間で連れ帰ることくらい訳ないだろう。しかもユーフェミアは今まで起こったことは知らない様子だからそれは迅速に行なわれたのは間違いない。
　それにもし聞かれたとしても自分には答えることは出来ない。
「くっ…」
　強く握り締めた拳に、爪で破けた掌の皮膚から血が流れるのも構わず、更にキツク握り締める。
「スザクっ！」
　ユーフェミアが驚いて叫ぶが今のスザクには何も聞こえていない。

　守れなかった…。たった一人の大事な少女を…！

　いくら鍛えていても多勢に無勢、しかもそれなりの訓練を行なっている者相手では素人が敵うはずも無い。でもそれはいい訳だ、もっと冷静になればそれなりの対応は出来たはずだ。
　しかし結果スザクは取り押さえられ彼女は連れ去られた。
「とりあえず怪我の治療を」
　ユーフェミアは側近に命を下し、スザクは王宮へと戻ることになってしまった。
　抗おうとしたが、今はむやみに動けば一層彼女への足がかりを見失うことになってしまう。
　それに今彼女の存在を皇族に知られれば、一層彼女が危険に曝されるだろう。
　彼女は言っていた。黒服は父親が手を廻した者だと。なら彼女の安全は保障されているだろう。
　今では多少の制限はあるが、王宮の出入りは支障がない。皇女殿下自らが許可を出してくれた為である。
　決行するなら夜だ。
　スザクは治療を受けた後、すぐさま離れの控え室にいる藤堂を呼び寄せた。
「お願いです、藤堂さん」
「若。一体…？」
　用件のみを伝えると、怪訝な顔をされたがすぐに動いてくれた。藤堂の事だ、すぐに情報を集めてきてくれるだろう。
　藤堂が父親の側近に就いたのは彼女と分かれた大分後のこと、スザクの想いを知らない彼に説明も何もなしに動いてもらうのは申し訳ないと思うが、ブリタニアの内情に詳しいのはやはり藤堂だけなので。
　今自分に出来ることは、彼女の安否を気遣うことと、藤堂からの知らせを待つことだけだ。
　いつでも動けるようにと、スザクはじっと部屋で待つ。
　しかし夜を迎える前、スザクが思っていたよりも速い展開を迎えることになる。
「えっ…？皇帝陛下が？」
　皇帝陛下が相手ではいくらスザクでも無碍には出来ない。交流があるとは言え国交問題に繋がりかねない位は分かっていた。
「分かりました」
　退室していった侍女が置いていった服を広げる。白を基調とした騎士のみが着ることを許された礼服。
「藤堂さんはまだですか？」
　他の側近に声を掛けるが皆首を振るだけだった。
　スザクはため息を一つ付くと、仕方なく服に袖を通す。
　自分の為に誂えられたのだろう体にフィットするそれに思わず苦笑をもらした。
　一体自分にどれほどの期待が向けられているのか計り知れない。
　しかし例えどんな相手であろうとも。スザクは信念を曲げることは無い。
　自分の将来は自分で手にする。
　自分の意思を伝え、そして彼女を救い出す。
「スザク様。時間でございます」
　扉の向うから掛けられた声に、スザクは一度瞳を閉じて深呼吸する。
　決意を新たに、スザクはマントを翻した。


　侍女の後に続いて暫く歩いた先に待ちに待った藤堂の姿を見つける。
　逸る心も漫ろに、侍女に声を掛けて隊列に藤堂を加えてそっと話しかけた。
「若、遅くなり申し訳ありませんでした」
「いいえ、それよりどうでしたか！？」
「それが…」
　歯切れが悪い。何か良くないことでも起こったのかとスザクは心配して歩みが止まる。
「スザク様？」
　しかし最後まで聞くことも出来ず、皇帝が待つ聖堂の扉の前まで来てしまった。
「後で聞きます」
　藤堂の何か言いたげな表情が気になったが、今は時間がない。
　扉が開かれ名を呼ばれると、スザクは玉座まで敷かれた赤い絨毯の上を進んでいった。




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傍から見てると間抜けなほど空回りしてるスザきゅん（笑）藤堂さんが哀れ。次回はルルサイドでっす。
20070129