スザルル♀

SHINING STAR～わたしだけの翔星～4

　遠くから義姉コーネリアの声が聞こえる。また姉が脱出に成功したようだ。
　目と足が不自由なナナリーにとって音と気配には敏感だった。
　暫くすると扉の前で立ち止まり、コンコンと音がした。ここ暫く続く朝の日課である。
「ナナリー」
「コーネリアお義姉様。開いておりますわ」
　中に入ってきたのはコーネリア一人。ユーフェミアは皆と外で待っているのだろう。この離宮に住むのは皇女のみ、常に義姉に使える騎士・ギルフォードはもとより他の殿方はけっして皇女の部屋には入ってこれない。唯一例外があるとすれば伴侶だろうが。
「今日もお姉様に逃げられたようですね」
　思わず笑ってしまったナナリーにコーネリアはため息を一つついた。
「笑い事ではないぞ…ナナリー」
　車椅子を器用に操りコーネリアに寄ると、すかさず手を伸ばし車椅子を押してくれた。これから朝食なのだが、ここ４日ばかり唯一同腹の姉だけがいない。それが少しだけ寂しい。
「皆様ごきげんよう」
「ナナリー皇女殿下。ごきげんうるわしゅうございます」
　父王が決めた姉の婚約者が恭しくナナリーの差しだした手を取り挨拶をする。
「スザクさん、ごめんなさい。どうか姉の行いをお許し下さい」
　頭を下げるナナリーに、スザクは気にしないでと慌てて手を振った。
　枢木スザク。父である皇帝陛下が選んだ姉の婚約者。ルルーシュに連絡が行ったのは彼が到着する前日だったが、上では既に決定し内々に進めていたらしい。ルルーシュが余計腹立たしく思うのも無理はなかった。
　日本は帝国から遠く離れた四方を海で囲まれた小さな島国である。だがいくら小国と言えど国交に有益な資源保有国、無碍には出来ない相手だ。少しでも悪い印象を持たれない様にと周りの配慮も分からなくはなかった。
　しかし初めて会って名前を呼んだ時、スザクはこう答えたのだ。
『確かに父は日本代表を務めていますが、私自身は何かしている訳でも、できる訳でありません。様付けで呼ばれるほど偉くもなんともないのです。どうかスザクとお呼び下さい』
　とても好感が持てた。そんな方が姉の婚約者なら、と。
　あの出来事を知らなければ素直に応援できただろうにとナナリーは思った。
　優しく紳士の方であるのだけれど。
　ごめんなさい。
　ナナリーにとって一番の優先は姉なので。
　小さく心の中で謝った。
　朝食をすませ、それぞれがスケジュールに従って動く中、何もすることがないスザクはユーフェミアの薦めもあり外出していった。
　礼儀正しいスザクの態度に、コーネリアは今ではこの縁談に乗り気だ。現時点で反対するのはルルーシュを溺愛している皇子たちと、表立っては見せない自分だけ。
「瞳はまるで新緑を思わせる翡翠のよう。跳ねた髪は栗色で、まるでワンちゃんみたいですわ。身長はルルーシュお義兄様と同じくらいかしら。体つきの良い軍の方はよく見ますが、あそこまで綺麗に無駄の無い筋肉のついた方は初めて見ました」
　こっそりユーフェミアから教えてもらった彼の容姿は、ナナリーに遠い記憶を思い出させた。

「お姉様、どうされたのですか？」
　帰ってきて早々浮かれ気味の姉にナナリーは声をかけた。
　王宮内での不穏な空気を孕み、自分の静養のためと名目を打って日本へ避難して来たは良いが、ずっと自分の面倒を見ているばかりか、塞ぎ込んでいるのは目が見えないからこそナナリーは気付いていた。
「私は何も見えないし、歩くことも出来ません。だからこそお姉さまには感じてほしいのです、見てほしいのです。ナナリーにどうか教えてください、日本の素晴らしい景色を…」
　ナナリーの説得を受け、ルルーシュはやっと重い腰を上げて外出していった。
　そして行きとは違う帰って来た時の姉は、きっと目を輝かせているだろう事は想像するに容易い。
「ナナリーにだけは教えてやる。秘密だからな」
　男の子に会ったのだと。ここはブルタニア王家の隠し別荘だ、土地の作りもあるが、敷地内へ立ち入ることは早々に出来ない。と言うことは姉は敷地外へ出たことになる。案の定ＳＰを巻いて抜け出したのだと。その先で出会った男の子は人懐っこい大きな新緑の瞳、飛び跳ねた髪は大地を思わせる茶色。木の間をくるくる飛び回る様はテレビで見た忍者のよう。川の中に泳ぐ魚を簡単に釣ってみせ焼いて食べた。
「ナナリーにも会ってみたいって。そいつも妹がいて自慢話になった」
　でもナナリーが一番可愛いぞと。
「私もお会いしてみたいです」
　他人に興味を示さない姉がこんなにも楽しそうに話す様は自分の事のように嬉しかった。
　しかし一度も会うことなく本国へと戻ることを余儀なくされた。
　帰りたくないと涙する姉に、しかし自分はあまりにも無力だった。
　それは今でも変わらないけれど。

　せめて、と願う。
　姉が幸せであるように。
　自分は何があろうとも姉の味方で居よう。たとえ命を落とすような事になろうとも…。

　そんなナナリーの思いを受けてか、運命は大きく動き出す。

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コーネリアも好きですがナナリーも好きです。彼女は実際スザクを応援してますから。でもルルーシュが一番なのは変わりません（笑）
20070115