SHINING STAR〜わたしだけの翔星〜2
飛行機の中、スザクは始終無言だった。
くりっとした大きなの翡翠の瞳は優しげな顔立ちにとてもよく似合う。しかし今の彼の醸し出す雰囲気は周りが竦み上がるほどに冷たい。あからさまな態度に、普段穏やかな分こういう時のスザクは普通の人なら側によることもできない。
しかしめったに見せないスザクの一面を知る者はごく僅かだ。
「スザク様。そのような態度では先方にも失礼ですぞ」
幼少の頃からスザクを知る藤堂の前だからこその態度なれど。藤堂の言うことは最もだが、それでも納得いかないのも事実だ。スザクは窓の外、眼下に広がる白い雲へ目を向けた。
ひと夏の、ほんの数日の出来事。
初めて会ったときはまるで未知との遭遇。森は霊山として枢木の管理する私有地だったため、今まで誰かと会うなんてことは無かったから。まさかこんな森の中で人と会うとは思っていなかった。森の妖精なのかと思ったくらい整った顔立ち、艶のある漆黒の髪。つりあがった紫水晶の瞳が驚いたように大きく見開き、しかし次の瞬間真っ直ぐスザクを睨む。呪縛が溶けたかのように思わず名前を名乗って手を伸ばしていた。しかし相手は警戒していたようですぐに突っぱねられたけれど。でも仲良くなるのに時間は掛からなかった。
その子はルルと名乗った。
男の子だと思ったけれど、ちょっとしたしぐさを見て少女だとすぐに分かった。良い所のお嬢様なのだろう、しぐさだけでなく着ている服も上等のものだ。
世間知らずのお嬢様は、だけど負けず嫌いで。スザクのやることは何だってやりたがった。日本人では無いのだと言っていたが、自分よりも綺麗な発音をしていて、時折言葉が通じず首をかしげた様はとても可愛くて、スザクは困らせるように言葉を連ねた。
家の都合で一時だけ日本に身を寄せるだけなのだと言うこともその時知った。そして抜け出して自分と会っているということも。
お互い妹が居るということで話は弾み、可愛いのだと自慢しあった。
しかし時は残酷で。
国に帰らなくてはならなくなったと、腕の中で涙を流す少女に、きらきら零れる涙は綺麗だけれど。
零れ落ちる雫が彼女を溶かし消えてしまいそうで、スザクは思いつく限りの言葉で必死で宥めた。
「泣かないで？大丈夫、絶対にルルの事迎えに行くから」
「本当に？」
「うん。だってルルの事大好きだから」
「ボクもスザク大好きだよ」
家の人たちが探し出すだろう時間ギリギリまで一緒に居た。抱きしめあって。幼いときはそれが精一杯の抵抗だった。
それから間もなく少女は日本を発った。
少年は心に決め、そして青年となった。
少女も美しい女性へと変わっているだろう。それでも人目で見つける自信はあった。
『約束だよ』
幼い約束でも、スザクにとってはそれが全てだった。だから今まで頑張ってこれたのだ。どんなに辛く厳しい修行でも、守りたいがために勉学にも励んだ。
しかし立ちはだかるのは古より受け継がれてきたこの身に流れる血と名。いや、むしろ今まで話が無かったこと事態が幸運だったのか。
上手くいかないな…。
ポンと音が鳴り、アナウンスが流れる。
「あと１０分で到着します」
「分かった」
外していたシートベルトを掛けて着陸に備えた。
ブリタニア帝国宮殿内、アリエス宮。
「お姉さまは？」
ナナリーが車椅子で近づいてきたのに気付きユーフェミアはそっと目を伏せた。
「まだ部屋で塞ぎ込んでおられます」
「そうですか…」
天岩戸を決め込んだ姉が心配で、義妹と妹とが扉の前で立ち尽くす。
「どうしましょう」
もうじき到着するとの連絡を受け知らせに来たのだが、これではどうしようもない。
「シュナイゼルお義兄様とコーネリアお姉様が交渉してますが、多分無理でしょう」
皇帝である父の言葉は絶対だ、いくらその血を継ぐ子供でも覆すことはできない。
「でも…お姉さまがお可愛そうです…」
姉の秘めた恋心を知るナナリーは、閉じられた瞳の奥で悲しみを感じた。誰にも知られていないあの夏の日。目が見えなくても、いやだからこそ余計に感じることができた姉の想いを。
いつの間にかコーネリアが側まで来ていた。沈んでいたため二人とも声を掛けられるまで気づかなかった。
「ルルーシュはまだ部屋か」
「コーネリアお義姉さま。はい、まだ中に…」
「ルルーシュ、ここを開けてくれ。無理強いはしたくない。ルルーシュ？」
反応が無いならまだしも気配も感じられない。まさか、と思いコーネリアは強硬手段に出た。
「お姉様！？」
「入るぞ、ルルーシュ…！？」
力ずくで明けられた扉、部屋の奥の天蓋付きのベッドの上には乱雑にシーツが寄せられ、窓辺のレースのカーテンは入り込むそよ風に揺られていた。
「逃げましたわね」
「そうですね」
ユーフェミアとナナリーが場違いなほど穏やかにゆったり答える。
「ルルーシュ！！」
中は物抜けの殻だった。
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…なんか友達がえらく気に入ってくれて、書いた続き。全部で10話くらいになりそうですわ（苦笑）やっぱりコーネリアが好きvv二人の再会はまだもうちょい先。スザルルと呼べるのか不安だ…（汗）
20070112
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