第１話 「再会」
「おいワタル、何してるんだ。学校遅れるぞ！」
「今行くから〜！」
ワタルは急いで制服に着替える。
階下では虎王とお母さんが和気あいあいとワタルが降りてくるまでの会話を続けていた。
バタバタしながらも扉が閉まる音がワタルがそろそろ来ることを知らせた。
「おまちど………」
階段を駆け下りる途中で、なんと足が滑ってしまった。
落ちる、そう思った瞬間、やはり身体は階段を落ちて…。
「うわ〜〜〜〜〜！！」
ゴン。
「………夢か…」
ベッドから落ちて目が覚めた。
『運命の鏡事件』から３年が経ち、ワタルは高校一年生となった。
虎王とは１年前に逢ったきり。今は何処を旅しているのか、今のワタルには分からない。
今の彼は知らない。知らないはずなのに。
『ワタル……』
夢の中の虎王は、うちに住んでいて、同じ制服を着ていた。
願望なのかな…。
彼が出てきたことと、思った以上に似合ってた制服姿。
「顔がにやける」
夢に出てきた彼を思い出し、ワタルは思いっきりにやけてしまう。そこへタイミング悪くお父さんが洗面所に入ってきて、ワタル君はお父さんともども固まっちゃいました。
「ワタルー」
玄関でお母さんに呼び止められた。
「今日ホームステイの子が来るの。だから早く帰ってきてね」
「おう」
そういえば前にそんなことを聞いたような聞かないような。でも今朝の余韻で気分のいいワタルは返事は返すがちゃんとは話をきいていなくて。
「それでね、その子たち学校先に行ってから来るんだって。だから一緒に帰ってきてね。それでその子たちの名前は…」
「わーったよ！」
出て行く瞬間に呼び止められた上に長々と話し掛けられてキれた。
「いってきます！」
後の言葉を聞かずにワタルは扉を思い切り強く閉めると出て行ってしまった。
「あーあ…名前も聞かないで行っちゃった」
だからその後のアキコお母さんの意味ありげな言葉もワタルには届かなかった。
キーンコーンカーンコーン
チャイムが始業の時間を知らせる。といっても入学２日目はまだちゃんとした授業には入らない。今週１週間はほとんどＬＨＲばかりだ。
あの夢が本当ならな……………。
ワタルは今朝の夢をぽーっとしながら思い出す。
「留学生を二人紹介するぞー」
その意識もすぐに切り替わる。室内がザワザワと騒ぎ出し、目の前にいる人物たちに、ワタルは現実か、非現実かわからなくなってしまった。
これは夢か………。
「ワタル君…？」
思わず立ち上がったワタルに、隣に座っている幼馴染の由美をはじめとして、教室中の生徒の視線を集めてしまうが、そんなことは今のワタルには目に入らなくて。
「虎…オ…ウ？」
「ワタル…」
目の前に、今朝夢で見た変わらない姿がそこにあった。だんだん近づいてきて。
強く抱きしめられて、初めて夢ではないと実感した。
「虎王…」
離れてしまった身長。一回り以上も大きい虎王のその背に手を回そうとして。
バキッ！
それはもう一人の人物によって阻まれた。そう、翔龍子だ。
「何すんだよ、翔！！」
「少しは…他人の迷惑も考えてみたらどうですか？」
翔龍子のメデューサの目により、虎王とワタルはだけでなく、教室中の空気が凍りついた。
「はっはい」
素直に謝る虎王。しかしまだ冷気は漂っている。
くるりと振り返られて、先生もびくっとしながら黒板に背をつけたのだが。
「すみません先生。話を中断させてしまい申し訳ありませんでした。どうぞ話を続けてください」
本当に、背に華をしょっているような、優しく、気品に満ちた笑みを浮かべて言われては、皆はこう思わざるをえないだろう。
『こいつだけは、敵に回すのはやめよう』…と。
「きっ気を取り直して…出席とるぞー」
しかし冷気はしばらくは消えることは無かったのだが。
「いやっでもまさか、学校に来るとは思わんかった…でもどうして？」
放課後、まるで絵本から出てきた王子さまのような二人の登場で、教室内だけでなく他のクラスからの集中攻撃から逃れるためにワタル、虎王、翔龍子は裏庭へと逃げてきた。そこでワタルは迷うことなく疑問をぶつけた。
「皇室の者は代々１６になると、別の世界へ修行しに行かねばならないのです。期限は１年。その間にその世界の色々なことを知り得なければなりません」
「ふ〜ん」
しかしワタルは知っている。世界はここだけではないことを。
「本当は別の世界だったのですが、その世界はすでに虎王がたびをしたことのある所でしたし、どうしても現生界がいいと虎王が我侭を…」
「翔龍子！！余計な事は言わなくていい！！」
翔龍子がクスクス笑いながら真実を口にしたとたんに、虎王は顔を真っ赤にして反論した。
二人のやり取りはワタルから見てほほえましい。彼らの事実を知る者の一人だから。その思いはよけいだ。ふと虎王の、頭上にあるはずのものが無いことに気づいた。
「虎王…角は…？」
その身体に流れる血も意味しているもの。でも何よりも彼が彼である証。それがそこに無い。
「ああ、目くらましの術をかけてあるんだ」
ある位置に手をかけながら虎王はこともなげに告げた。確かに現生界で暮らしていくならその角は人々の奇異を対象になる。消しておくに越したことはない。
「なんか、すごいね」
虎王は、会ったときよりも確実に力をつけている。
「そうだ！！僕んち行こう！！両親に紹介したいんだ！！」
せっかく同じ学校に通うことになった大切なトモダチ。昔は誰に言っても信じてもらえなくて悲しかったが今だからこそ、こうして居るからこそちゃんと紹介できることにワタルは嬉しくてたまらない。
しかし。
「えっ？」
ワタルの台詞に虎王と翔龍子は訳がわからず驚いた。
「翔くん、虎くん、いらっしゃーい！」
ついでにワタルもお帰りなさいと言われた言葉は、しかし最初の言葉で思考を止めたワタルには聞こえなかった。
「へっ…え〜〜〜〜〜〜！？」
なんで先ほど二人が驚いた顔を見せたのか。ここで全てが判明した。主犯はお母さんのアキコだったのだ！！
「どうやら私たちのことは聞いていなかったようですね」
「そのようだ」
ワタルの叫び声をＢＧＭに二人こそこそ話をする。
「何よ、あんた分かったからつれてきたんでしょ？」
お母さんの意地悪な言葉に、二人はピンと来る。
誰かが来ることは話したが、誰が来るとは教えていなかったのだ。（本当はワタルが聞かなかったんですけどね）お母さんの取り繕った表情の内は笑い転げているのが明らかに分かった。
訳の分からないワタル一人だけが取り残されている。
「さっ二人ともどうぞ。荷物は部屋に置いてあるから」
「おじゃまします」×２
お母さんに呼ばれて二人はワタルを残す形で部屋へと向かった。
「ひどいや虎王。僕に黙ってるなんて……」
さてこちらは虎王の部屋。部屋があるのは知っていたが、机にタンス、ベッドまで。自分の気づかぬうちにまさかここまで用意されているとは思っていなかった。お父さんは家長なので知らないはずは無い。自分ひとりだけ何も知らされていなかったのだ。
「だからすまんて……」
これでも抵抗はあったんだぞという虎王の言葉に、それでもワタルは納得いかない。
「虎王終わったか？」
自分の仕度は終わったので虎王の部屋へとやってきた翔龍子だが、二人の不毛な押し問答にあきれるばかり。
「………」
「ただいま」
「あっお帰りなさい。みんな〜ご飯よ〜！」
家長の帰宅にお母さんは上にいる三人を呼ぶ。
「は〜い」×３
こうして、３人の高校生活はスタートした。
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