SEED QUEST〜Fields of hope 5〜
外から聞こえてくる金属のぶつかり合う音に目が覚めた。
窓を開けて外を覗けば、シンとヒュンケルが剣を交えている。音の正体はこれだったようだ。
すっきりした頭に、アスランは大きく息を吸ってぐぐっと背伸びした。
「っはぁ〜」
いつもより軽い体に気分良く、簡単に身なりを整えると階下へ向かった。
「お、起きてきたな」
ポップに笑顔で迎えられて、アスランは昨日の失態を思い出して顔を真っ赤にさせた。
「昨日は…すいませんでした」
泣いて泣いて。縋ったところまで覚えている。
つ…と頬へと伸ばされた指先に、アスランは一瞬たじろぐが、すぐ離された。
「ぐっすり眠れただろ！」
久しぶりの深い眠りに顔色も体温も戻っている。
肌が白かったのは寝不足が原因であったことも指摘され、今更ながらに心配をかけさせたことを自覚したアスランだった。
「さあ、そろそろあいつ等も戻ってくる。そこの料理運んでくれないか？」
自然に振る舞うポップにアスランは張っていた体の力を抜いた。
「はい」
良い匂いにお腹が鳴りだす。現金だと思いながら、出来上がった料理をテーブルへ並べて、最後の一品を置くと、タイミングよく皆が戻ってきた。
「あ、おはようアスラン」
キラの笑顔につられ、アスランも笑顔で返した。
「おはよう、キラ」
今までとは違う心からの笑顔。
やっと見れたそれにキラは嬉しすぎて一瞬だけ顔を歪めるが、あわてて取り繕うと手を洗ってくると奥へ入っていった。
でもアスランは見逃さなかった。瞳がうっすらと輝いていたことを。
「シンすごいの！ヒュンケルから１本とったの！」
腕を引っ張るステラをあやしながらシンに笑顔を向ける。久しぶりにステラの笑顔を正面から見れたような気がする。シンのまっすぐな瞳も。
純粋に、成長していく彼らの姿を嬉しく思う。
二人にも随分と気を使わせてしまった。
「まだまだ叶いません」
拗ねた顔してそっぽを向くシンにヒュンケルが頭を撫でた。
「いや、成長した」
師の言葉にシンがくすぐったそうに顔を綻ばせた。
殺伐とした戦いを生き抜き迎えた笑顔に皆の心が温まる。
「ご飯だぞ〜」
「「「「は〜い」」」」ポップの声に４人の声が重なって、おかしくなって笑い出す。久しぶりに声を立てて笑った。
無性にカガリに会いたいと思った。
決して避けていた訳ではない。しかし二人の置かれている境遇、立場。考えればキリがない隔たりに気を使い時折悲しそうな瞳を向けるカガリがアスランにとって苦痛だった。
でも今なら大丈夫だと。そう思えるのは心が晴れたからだろう。
足りなかったのは生きる覚悟と未来を歩む決意。予想されない試練が訪れるだろう。しかし決して諦めないと決めた今、怖いものなどなにもない。
今ここに彼女がいないことを残念に思う。
帰ったら真っ先に会いに行こう。
迷いを吹っ切ったアスランの表情は晴れやかだった。
「はい」
「これは？」
ポップから篭を手渡されて中を覗けば松茸の山。
「カリダから頼まれたんじゃないのか？」
「ああっ！」
きょとんと首を傾けるポップに、アスランはすっかり忘れていた当初の目的を思い出し、顔を蒼白にさせた。
「大丈夫だよ〜。母さんには連絡済だから」
それでも自分の仕事を放っぽりだしてしまったことにアスランはがっくり肩を落とした。
「アスランはまじめだなぁ」
性分だから仕方ないと、開き直るしか無いではないか。
「じゃあな！」
手を振って別れる。
結界で閉ざされた町。来た道を辿り、扉を潜れば自分たちの世界へ戻る。
心なしかキラの様子がおかしくて、アスランは肩に手をかけようとした瞬間。
これからの未来を創るのはお前達だぜ…
まるで風に乗って聞こえてきた囁きにアスランは振り返った。
「え？」
背後にあった扉がまるで溶けるように消えていく。
「何で…」
まるで幻が溶け逝くように、そこにあったはずの木々は姿を消し、現れたのは村の名残を残した廃墟だった。
「キラ！？」
一人動揺せず見つめるだけのキラに、何が起こったのか問おうとして、しかしキラの瞳に浮かぶ揺らめきと笑みにアスランは何も口にすることはできなかった。
「これで穏やかに暮らせるね」
彼らは自分たちを見守ってきてくれた。まるで背負った罪を贖うように。
しかしやっと解放されたのだ。
「ありがとう…ございました」
頭を下げたキラに、アスランは今唐突に理解した。彼らの生きてきた理由、存在意義を。
彼らのアスランを見る瞳はとても優しいものだった。しかし違和感はあったのだ。竜の血を継いでいるのだと教えてくれたときのポップの瞳は、アスランを通して誰かを見ていた。きっとそれは彼らの勇者で、遠い先祖なのだろう。
何となく彼らは自分の為に居続けてくれていたのだと。
そして長い悠久の歴史の中を生きてきたのだと。
キラに続きシンとステラも黙祷を捧げる。
アスランも彼らと過ごしたほんの短い時間を心に刻みながら瞳を閉じた。
「さぁ帰ろう！」
キラの声に三人が顔を上げた。
呪文の発動により光の粒子が四人を包み、反重力の力で体が浮遊する。
アスランは遠ざかってゆく大地を見下ろした。人も近寄らぬ深い森は、今まで同様これからも静かに過ぎてゆくのだろう。
「ありがとう」
アスランは小さく呟き、前を見据えた。
もう振り返らない。
希望を胸に。
さぁ帰ろう。
皆が待つホームへ。
愛する者が待つ場所へ−−−−−−−−
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20080111
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