SEED QUEST

SEED　QUEST～Fields of hope 3～

　目の前に並べられたお菓子の山に、シンとステラの瞳が輝く。
　二人の期待いっぱいの視線を向けられたキラは、良いよと笑顔で頷いた。
「いただきます」
　二人は礼儀正しく手を合わせて挨拶すると、一山に指を伸ばして口に運ぶ。
「…おいしい！」
　嬉しそうに食べる子供二人にポップも顔が綻んだ。
「いっぱいあるからな～遠慮しないでいいからな」
　食べさせ甲斐のある二人にポップは次々お菓子を出してくる。
「師匠！夕飯入らなくなるからあまりあげないでください！」
　ピシャリと言い放つキラに何故かアスランの方が慌ててしまうが、結局はキラに何も言うことができなくてわたわたするだけだ。
「堅いこと言うなよ。夕飯は少し遅めにとればいいんだし。どうせ泊まるんだろ？ごちそういっぱい作るからな～」
「ごちそう！」
　さすがのキラもステラの笑顔に勝てるはずなく。ごちそうを食べたいオーラを出す二人にキラは降参と肩をがっくりおろした。まぁ当初から泊まるつもりだったので問題はないが。
　キラは親の権威形無しと唇をとがらせてぶつくされてしまった。
「キラぁ～」
　こうなったキラをなだめるのは大変なのだ。どうしようとアスランは視線を泳がせると、ポップから向けてくる視線とぶつかった。
「ほっとけ。拗ねてるだけだ」
　にかっと笑われて、さすがキラの師匠だと感心せざるを得ない。
「改めて、初めまして勇者くん。俺はポップ、とりあえず大魔道士だ」
「アスランです。貴方にお会いできて光栄です」
　伸ばされた自分より細く白い手にどきりとする。体温が低いのか、僅かばかりひんやりとする掌から伝わってくる彼の底知れぬ力の波動に身の毛がよだつ。オーラが違うのだ。キラが師と仰ぐだけのことはある。
「君の活躍は耳に届いてるよ」
「いいえ、私だけでは無理でした。キラや仲間の力があったこそです」
　アスランの言葉にポップは思っていた以上の好印象に瞳を細めた。
「謙虚だ、それにすごく真面目」
　キラとは正反対だな、との言葉に反論できず、アスランはキラを横目で伺う。これ以上機嫌が悪くなればストッパーである歌姫のいない今、キラを止めるのは自分には無理だ。
「うるさい」
　ぶつくされながらも、二人して頬張りすぎてテーブルに零すお菓子を綺麗にしながら窘めるキラに、ポップの見つめる瞳は親が子を思うそれに似ていてとても優しく、自然とアスランの顔も綻んだ。
「皆代わり映えないか？」
　やはりキラの師匠だ、さりげなく前に置かれたキラお気に入りのお菓子に、先ほどの不機嫌もどこ吹く風ご満悦になった顔は、しかしその言葉に嫌なことを思い出させると眉をしかめた。
「ぜ～んぜん。ランペルージ先輩は嫌みったらしいし、マリアン道士は行方不明だし、まともな僕はいつも苦労しているよ」
　本音を多大に含めたキラのグチに相変わらずなんだなぁとポップが笑う。
「まぁでもそう言うなって。ルルーシュの祈りなくして自然の恩恵は受けられないし、クロスが世界を回ってくれてるから被害が出る前に子供たちを保護できてるんだ」
　大魔道士にはそれぞれ役割がある。
　キラが死と再生を司りし炎の守人であるように、命を司りし水の守人ルルーシュは生きとし生けるものの生命を守り、調和を司る風の守人クロスは未然に悲劇を食い止める。
「お前の暴走を止めたのだってクロスじゃないか」
「…」
　それを言われりゃグーの根もでない。
　持って生まれた魔力が膨大だったキラは、４歳を迎えてまもなく力を暴走させ、側にいたカガリは力をまともに受けて生死の境をさ迷うこととなった。キラの一番古く、苦い記憶だ。
　力のコントロールを身につけるため両親に伴われ世界を廻ったが、一時ユニウスセブンに身を寄せていた。アスランと幼なじみなのはその由縁である。
「そりゃ…そうだけど…」
　魔術士を束ねる御三家は大魔道士である炎のキラ、風のクロス、水のルルーシュの三名。役割は先に述べた通り。人が持つ魔力の性質もこの三つにわけられ、力のある者はそれぞれ三家の管理下におかれる。
　どれも属するのは世界でただ一人、ポップだけだ。
「へ～…いひゃい！」
「へ～じゃないよ、シン。君は学校で何習ったのかなぁ？」
　感心した声を上げたシンに、キラはにこやかに笑みを浮かべながら頬を思いっきりつねる。シンは両手を動かし早々にギブアップ体制だ。
「いたい…」
　やっと解放された真っ赤になった頬にステラが痛いの飛んでいけ～とさすってあげている。
　まったくもって可愛らしいカップルだ。
　魔法に見切りをつけ剣士になったシンだが、魔力はあるため学校へは通っていたのだ、これでも。今は剣を媒体に魔力を発動させる魔剣士として、オーブ国はカガリ姫の護衛官を勤めている。
「さて、そろそろ夕飯の準備に取りかかるか～」
　立ち上がったポップにアスランが自分も手伝うとすかさず立ち上がった。
　アスランは家で番頭の仕事をしながら調理場も手伝っているので料理はお手のものだ。
　二人して台所へ向かう後ろ姿を見せた師の襟足に見慣れた赤い跡を見つけ、キラは盛大に吐きたい溜息を堪え、クッキーを一つ口に放った。
「師匠の方が相変わらずな癖に」
「何か言ったか～？」
　ボソリと呟いた言葉だが、人間こう言うときだけ耳聡いのは何故だろうか。
「いいえ～何も言ってませ～ん」
　目の前では相変わらず嬉しそうにお菓子を食べているシンとステラ。
　何処もかしこもラブラブで羨ましいこと。
　しばらく会っていないラクスに無性に会いたくなってしまった。
「ただいま」
　タイミングよく帰ってきた跡を付けた張本人に、思わず殺気を向けてしまう。空気が読めないところはアスランにそっくりだとキラは今度こそ盛大な溜息をつくのだった。

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シンとステラは１４歳です、これでも（苦笑）次は一家団欒…？（笑）
20071030