SEED　QUEST〜Fields of hope 2.5〜




　ポップによって展開された結界内は、めまぐるしく流れていく外界とは違い、ゆったりと時間が流れていく。
　最近著しく食が細くなっていくポップに少しでも栄養価が高い物をと、ヒュンケルはトレーニングをこなした後、いつものように山へと入っていった。
　生い茂る緑に埋もれているが、村があった名残を僅かに残す此処はポップの故郷ランカークス。時の流れの中で過疎化が進み、ついに歴史の中に埋もれていった村を、今尚知る者は一部を除き誰もいない。
　廃れて何百年も経つが、ここは変わらず優しい空気で二人を迎え入れてくれた。
　この場所に移り住んで５年…時の流れから外れる自分たちにとってそれは瞬きする程度にしか感じない。それでも穏やかな暮らしは至福の時間だ。
　決して、不死騎士団長として魔王軍に属し、たくさんの罪無き命を奪ったことを忘れてはいない。優しい空気はなおさら罪の意識に苛まれる。
　それは忘れてはならぬと、戒めなのだろう。

　今日は随分と精霊達が姿を現している。もともとこの地は清浄な空気に包まれている為、人の姿も無いことから人外の生き物が多く姿を現のだが。
　そのうちの二匹が飛んでくる。目の前で飛ぶのは風と火の子供の精霊。腕白な小さな彼らは頭上をぐるぐる回った後、両肩に座ってその背の羽を休めた。
『おはよ〜ヒュンケル』
『今日は湖で野鳥が集まってるよ〜？』

　その身に宿る力で情報を提供してくれるのだ。
「いつもすまない」
　ヒュンケルの言葉に二匹は嬉しそうに笑顔をこぼし、早く行かないと飛んでっちゃうよと指さしてせがむ。
　こうして自分を無条件に受け入れてくれるのは、ポップの存在があるからだ。神に、そして動物や精霊たちに愛された至高の存在…。
　彼らはポップの身を案じている。最近は一人の時なら常に側へ寄ってくる。本能で何かを感じ取っているのだろう。
　事実、天上界に座する神々から再三に渡って連絡を賜っている。向こうもやきもきしているに違いない。
　居座る理由はまだ聞けていないが、伊達に長く一緒にいない。多分自分が考えていることで間違いないだろう。
　山の中腹にある湖から流れる小川のせせらぎをＢＧＭに上っていく。木漏れ日が顔に当たって眩しい。今日は洗濯日和だと袖をめくって細い腕を晒してたのを思い出す。ここのところ続いた雨に洗濯物も貯まっていたからさぞかし大変だろう。
　家事に関してはいろいろとあり、ポップに禁止令をくらっているので手伝うこともできない。
『あれだけのシーツの量も爽快だよね！』
『ヒュンケル底なしだもんね〜』
『つき合えるポップもスゴいよね』
　風の情報はリアルタイムに入ってくる。おしゃべり好きの精霊界では情けないことに自分たちは話のネタにされているらしい。当初は必死で喚いていたポップも今では諦めてそのままにしているよので筒抜けだ。
　今更なところもあるが少なくても昼間の会話ではない。もうやめろと人差し指で力を加減して頭を撫でると気持ちいいのか大人しくなった。
　程なく辿り着いた湖には精霊たちの言ったとおり野鳥が集い水浴びをしていた。
　苦手な弓を引いて、１羽だけ仕留める。余計な殺生は好まないし、彼も悲しがるので。このサイズなら二人で十分だ。
　他の野鳥は黒い眼差しを向けてくるだけで逃げようとはしない。
「ありがとう…」
　生きていく自然界の連鎖を彼らは分かっているのだ。
　シルフが巻きあがった風に尖った耳をピクピク動かして耳元に飛んできて顔を寄せてくるのに耳を傾ければ家に来訪者ありと言う。
　この場所を知る者はただ一人。魔力を持つことなく、たぐいまれな運動センスと確かな腕で魔物をしとめるハンター。自分たち同様神と契約を交わす地上の傍観者。ただ一つ違うのは契約主が自分たちは太陽神なのに対し、彼女は月の女神の恩恵を受けていること。
　太陽神の妹にして夜を司る月神は、彼女をことのほか気に入り大切にしている。しかし自由奔放の彼女はその愛を受け止めながらも気ままな旅生活を送りながら時折こうして訪れる。
　精霊たちのおしゃべりに付き合いながら果実や木の実、薬草などを袋に詰めていき、いっぱいになったころやっと家に辿り着いた。
　飛んでいった赤い髪に珍しく早く帰って行ったのかと不思議に思いながらも、背を向けたままのポップにただいまと声をかけた。
「お帰り、ヒュン。くしゃみは出なかったか？」
　その言葉にどうやらあの短い時間の中で自分の話題が上がったようだ。喜んでいいやら悲しんでいいやらわからないが、表情に出ることない顔に、ポップがクスリと笑う。
　お見通しと言うことか。自分がポップの事を分かるのと同様逆もまたしかりと言うことだ。
　客人がまた訪れるから材料を仕入れに行ってこいと送り出され、再び山へ逆戻りする羽目になる。
　ポップの嬉しそうでいてどこか悲しげな笑みに多分彼らだろうと確信した。
　ついに約束を果たす時が来たのだ。

　現れたイノシシをしとめて戻る最中に精霊たちが騒ぎだした。
『優しい気〜vv』
『すっごい気持ちいいの！』
『ヒュンケル、はやくはやく！』
　竜の気は精霊や動物たちにとって気持ちのいいものらしい。背を押されてせかされながら帰路につく。

　竜の血をその身に宿す地上人はポップと、人との交わりによりかなり薄れたがもう一人。
　かつての仲間であり戦友だった彼の血を継し、勇者として存在する、ポップの“息子”キラの親友と言う彼。
　竜の紋章輝きし時再び戦乱の世となる。しかし輝きは必ずや地上を平和に導であろう。
　しかしその時に訪れるだろう人間の羨望、恐怖、憎悪といった醜い感情に、傷つき苦しむだろう子孫を導いて欲しいと。勇者であった弟弟子は願って天へと旅立ったのは遠い記憶の中に。しかしあの頃の事は今でも鮮烈に覚えている。
　そうして過去数度訪れた戦いと平和の中で見守ってきた血だが、これで最後となるだろう。

　ポップの体は最初の戦いで使いまくった禁呪により疲労し、さらにその後の戦いに協力するこで酷使され身体はもう限界だった。姿こそ若いままだが、竜の血をその身に受け入れたために辛うじて保っていたにすぎない。
　激痛に苦しむポップに、差し伸ばされた神の慈悲により、地上を見守る役目を仰せつかり、こうして自分も再び生を受けた。
　ポップによって生かされている身、彼が死ねば自分の心臓も鼓動を止める、それだけのこと。
　戦いからわずか半年。
　地上につなぎ止めていた心残りもこれで昇華できる。
　聞こえてきた楽しい笑い声に、付いてくる精霊たちをそのままに、ホームの扉へ手を伸ばした。



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友達に気恥ずかしいと言われたヒュンポ（笑）とりあえずほぼ線上つめこめたかなぁみたいな？
次は合流だ〜！！
20071028