SEED QUEST〜Fields of hope 1.5〜
オーブ国、アカツキ城内、長い回廊をカガリは足早に移動する。
珍しくもめったに着ることのない公式用のドレスを身に纏っているのは、この先迎賓室で待つ相手が自分より遙かに高位の人間だからだ。
そして辿り着いた扉の前で深呼吸をして逸る心を落ち着かせた。
−−やっと会える…！
控える近衛兵により扉が開かれた。
「お待たせして申し訳ありません」
窓際で外を眺めていた相手が振り返る。カガリは目的の人物の前まで進み、ドレスの端を持つと深々と頭を垂れた。
「オーブ国第一皇女カガリ・ユラ・アスハです。この度は私の願いを聞き入れて頂きありがとうございます」
頭を上げ、頭一つ分高い位置にある相手の顔をカガリはしっかりと見上げる。
燃えるような赤い髪がさらりと揺れ、まるで凪いだ深い湖の底を思わせる蒼い瞳がカガリを映すと柔らかく形を歪めた。
「いいや、私も会えるのを楽しみにしていたよ、噂に名高い金の戦姫」
−−フォルテ・シュトーレン…月の女神の恩恵を受け、世界で唯一偉大なる大魔道士の居場所を知る者。
アスランの様子が変だと気づいたのは戦いも終わり世界が平和になってから幾ばくも経たない頃だ。彼を知らなければ分からない僅かな違和感。しかし良く知る者ならば気づくだろう小さな異変。
世界をかけた戦いだった。彼の肩に掛かっていた責はとても大きく、それが一気に取り除かれたのだ、気が抜けてもおかしくない。
でもそれだけではないとカガリは気づいた。
元気づけようとカガリはキラと画策したが効果はなかった。本人が無自覚だからよけい質が悪い。
「師匠がいてくれたらな…」
ぽつりと呟かれたキラの言葉にカガリは首を傾げた。
何故ここでお師匠さまなのだろう？
「師匠は得意なんだよ。こういった分野も」
よく町の人たちの話を親身になって相談にのっていたのだという。
「まぁ伊達に長生きしてないからね」
「何だそれは？」
一度キラを介して会ったことがある。アスランも共通して言えることだが、はっと目を見張る美しさを備えていた。
艶やかな漆黒の髪は彼の明るく人懐っこい性格を表したように跳ね、全てを見通したかのような静かなる闇を称える漆黒の瞳は、光の加減を受け時折自然の息吹を思わせる常葉色に変える。
キラの師匠にして唯一精霊と言葉を交わし使役できる偉大なる大魔道士ポップ・ランカークス。
同時に思い出すのはその横に佇む銀の輝き。地上最強の魔剣士と詠われるヒュンケル・バルトス。大魔道士を優しく見つめる紫玉の瞳の美しさに、見ている方が恥ずかしく思うほどで。でも物言わずとも瞳を交わすだけで分かり会える二人の関係に憧れてたりする。
そんな自分たちと大して年端も変わらぬ彼らが与えられた地位に感嘆をついたものだ。その相手に対し長生きだなどと失礼にもほどがある。
「あれ、カガリ知らないんだっけ。師匠とヒュンケルさんは降魔大戦で活躍した勇者だよ」
「降魔大戦って…千年以上昔の！？あの伝説の！」
魔術士協会では知れ渡っていることでも、そう言えばカガリは学校に通ってなかったっけとキラが呟く。
魔法使いの頂点、大魔道士であり６年前までは術士を束ねる最長老だった。最長老と言っても姿は老人のそれでない。
太陽神と契約を結び、最盛期で時を止めた体は若く、少年から抜け出たばかりの容姿だ。ヒュンケルもまたポップと同様に時を止めて遙か長い時を、紡がれる歴史を見守ってきた。
大魔道士は現在炎・風・水を頂く三名によって統括されている。一人だけに統治をさせることを良しとせず、力を削ぎ均衡を保つ為だ。魔力を持つ子供の保護として協会を立ち上げ学校を創設したのも、今のシステムを確立させたのもポップだ。
キラは普段一人っ子のわがままなところが強いが、戦闘になると状況を見定め冷静に対処できる。指示を跳ばす指令塔。膨大な魔力で魔術を駆使し、勇者や仲間の窮地を何度も救った。キラがいなければ大魔王は倒せなかっただろう。キラが圧倒的な力を有するのは流れる血もあるが、この師匠の元についていたことも大きい。
ポップはキラの卒業と同時にヒュンケルと共に姿を消した。自由奔放な人だった。人を愛し、自然を愛する。厳しくも優しい人だったと、キラは懐かしむように目を細めた。
「師匠ならわかると思うんだ」
それはかつて、彼の勇者が辿った道と同じで、きっと乗り越えただろう友を、時には助け見守っていたのだから。
いつもそうだった。自分のことは後回し。加えて自分のことは頓着なのに、他人の感情には機微で。
だからこそ、彼ならアスランを適切な言葉で導いてくれるだろうと。
「思ったんだけどね」
キラが深い溜め息をついた。
「魔力で追えないのか？」
キラは史上最年少で炎の任に着く大魔道士だ。現存する魔法使いの中でポップに続き最強の力を持つ。よく知る人物の魔力を追うことくらい造作もないだろう。
「だめなんだ。多分精霊たちが力を貸してるんじゃないかな」
精霊に愛されているポップ。彼らが力を貸しているのなら、居場所を探すことはキラでも出来ない。しかし自然が彼に味方しているなら安全は保障されたも等しい。どこかで生きているのは間違いない。
キラに後を託し隠遁してしまった大魔道士は今どこにいるのか。
自分たちは世界を救った勇者一行と讃えられても、人としてまだまだ子供だった。
親友一人救えやしない。
「大魔道士ポップ様…」
カガリはぐっと拳を握りしめた。
キラは諦めていたが、カガリは諦めなかった。自分の使役できる力を全て使い、世界を隈なく探した。全世界にネットワークを敷く旅人の斡旋所・アークエンジェルにも要請しゴンドアナの隠し巫女イザークにも占ってもらった。しかし一向に掴めない。キラでさえ捉えられない相手を捜すなどやはり無理だったのか。
しかし神は見捨てていなかった。やっとのことで掴んだは情報は、彼らの居場所を知っているかもしれないという人物が世界のどこかにいると言うもの。ただし一カ所に留まることを知らない旅人を捕まえるのは運頼みだとも。それでも大魔道士を探すより確立はあがる。そうしてやっと探し終えたときは実に５ヵ月もかかった。
神の代行であり傍観者。一カ所に留まることをしない世界を旅する狩人。
月の女神の恩恵を受けるその人物は、イザークの力を持ってしても関知するのに時間がかかった。とても気むずかしいと聞く。コンタクトを取っても会えるかどうか分からないと。
しかしカガリの希望は現実となった。
切望していた人が今、目の前に立っている。
大魔道士の居所を知る人物。
相手は神の卷族だ。神の前では一国の姫と言えどただの地上人でしかない。
「ご存じなら教えて頂きたいのです」
強い視線がカガリを射る。負けるわけには行かないと、カガリは腹に力を入れた。
「おいそれと教える訳には行かないんだよね〜」
今はフリーとなった偉大なる大魔道士、そして最強の魔剣士の力を欲する国は多い。カガリはオーブの姫。軍事的利用にと思われても仕方がない。
相手はカガリを試している。
「我が国は関係ない。ただ、友を救いたいと思う私のわがままだ」
「友？」
問われた簡潔な言葉にカガリは息を飲んだ。
アスランに側にいて欲しいとは言われた。でも好きだと言葉にされていない今の関係に進展はなかった。
「お前はどう思ってるんだ？」
見透かされる心の奥底。
多分初めて逢ったときから惹かれていた。側にいたいと思ったのは彼が初めて。だからこそカガリはあの死ぬかもしれない戦いへ…アスランの元へ向かったのだから。
「好きだから、大切な人だから元気になって欲しいんだ！」
顔を真っ赤にして叫んだカガリにフォルテは笑い出した。
−−何で笑うんだ〜！
決死の覚悟を笑われて居たたまれなくなる。
「あ〜ごめんごめん。ホントそっくりだねぇ」
フォルテはクスクスと笑いながらカガリの頬に掛かった髪を梳いた。
アップになった美しい容貌にカガリはたじろぐ。
「いいぜ。もともと教えるつもりだったし」
そうしてフォルテはカガリの頬にキスを落とした。
いきなりのことで混乱をきたすカガリの耳元に唇を寄せると彼らの居場所を囁くのだった。
_____________________________________________ __ _
それぞれ苗字はポップは住んでた村の名前。ヒュンは育てられた骸骨剣士さんの名前。昔は名前だけだったけど途中から苗字をつけるようになったので、つけましたということで。
三大魔道士設定はもう言わずと知れたグランだね（苦笑）友達から他の大魔道士にルルを推された…また訳分からないサイトになってくぞ〜？
20071012
|