SEED　QUEST〜記憶のかけら〜




「ランスだ〜！」
　見知った青年にステラは嬉しくなって抱きついた。
　勢いついて飛び込むステラを、しかし鍛えてるだけありランスはよろけることなくやんわりと受け止めた。
　まるでネオみたいだと、ステラは逞しい胸にすり寄った。
「こんな所まで…どうしたんだい？」
　ランスが驚くのも無理はない。ここ魔界はアスラン達の活躍で数百年ぶりに太陽の光を手に入れたとは言え、異界との接触はないのだから。
「よく分かんないの…」
　しょんぼりしてしまったステラにランスは元気付けようとするが。
「勇者様たちは一緒じゃないのかい？」
「キラ…」
　選ぶ言葉をミスったことに気づいても遅い。ステラはついに泣き出してしまった。
「ふえっ…シン〜っ」
　とりあえずステラは一人で来たのだろうと辺りを付けたランスはどう慰めようかと思案し、ふとポケットにしまった袋を思いだして取り出した。
「ステラ」
「わぁクッキーだぁ！」
　家に行けばまだあるよとの言葉に先ほどの大泣きはなんのその、ステラの瞳が輝き出した。



　わ〜いと少し離れた場所から聞こえたはしゃぐステラの声に神田の意識が浮上する。
「つっ…」
　エラい目にあったと、神田は朦朧とする頭を奮い立たせ立ち上がった。
　辺りを見回し、元凶の黄色い頭を見つけると、苛立を隠さず近寄ろうとして、だが側に立つ青年の姿に立ち止まった。
　振り向いたその顔に、神田の普段動かぬ表情が驚愕に変わる。
「カンダ？」
　ステラの神田への認識は目つきが悪くて無表情のむっつり。大嫌いな人でアレンの好きな人。いつもは何よりも先に攻撃に移るステラだが、いつもと違う様子に首を傾げた。
「知り合い？」
　ランスに問われてステラはこくんと頷いた。
「君も一緒にどうかな。お茶出すよ」
　にこにこする顔に彼の置かれている状況を把握し、神田は愕然となった。
「お前、まさか記憶が…」
　神田の言葉に今度はスザクが表情を険しいものへと変えた。
「君、僕のことを知っているのかい！？」
　ピンと張りつめた空気を切り裂いたのは。

　ぐ〜

　可愛らしく鳴ったステラのお腹の音と。
「お腹空いた…」
　へにゃりと地面に座り込んだステラの姿だった。
「ヒヨコ頭…」
　さすがの神田もこの事態に脱力を隠せない。
　ランスの方も思わず笑いを隠すことができなくて、くっくと喉元を鳴らす。しかしそれで落ち着きを取り戻すことができたと、ランスは改めて二人へ手を伸ばした。
「先に腹ごなしだね。君も来てくれないかな。教えてほしい、僕のこと」
　問題は山済みだ。先のことを考えると痛くなる頭にため息を一つ吐くと、神田は二人の後を追った。



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20080315