SEED　QUEST〜記憶のかけら〜




「シンのバカ〜！」
「ステラ！」
　聞こえてきたステラの悲鳴に、さて今回は何をやらかしたのかと立ち上がったキラだったが。
「ルーラ！」
「ステラ！待って！！」
　覚えたての移動呪文を使いステラはいずこかへ飛び去ってしまった。後に残ったのは真っ青な顔で手を伸ばして固まったシンの姿。
「！」
　キラは瞬時に杖を呼び出してステラの魔力を追いかけた。
　今のステラの精神状態でルーラの連発など危険極まりない。
　闇雲に移動呪文を使うとどこに出るかわからなくなる。下手するとダンジョンに出てしまうこともある。
　魔力が高ければ高いほど精神と肉体にかかる負担は大きくなる。
　だからまず魔法使いはコントロールを身につけるため精神を鍛えさせられるのだ。しかしステラはまだ見習い、
　拾得するに至ってない。
「シン、ぼさっとしてない！行くよ！！」
「え…あ、はい！」
　キラもルーラで追いかけるが、ステラのスピードについてゆけず見失ってしまった。
「ちょっと、まずいかも…」
　キラの呟きに、シンの顔が目に見えて真っ青に変わってゆく。シンは魔剣士だ、魔法の授業もかじっている。ステラの今の状態に今更ながらに気づいたのだろう。
　考えている時間はない。ステラの行きそうな所と思い描き、キラはオーブへ飛んだ。

　その頃ステラが何度か移動を繰り返してたどり着いた先はオーブにあるステラの実家、ラミアスの酒場だった。
　バン、と扉を開け放ち飛び込んだ。
「ネオぉ！」
「ステラ、どうした？」
　えぐえぐと、広い胸に飛び込んで泣きじゃくるステラに、ムウは苦笑しながら頭を撫でた。ステラがこうして飛び込んでくるのは久しぶりの事だが、昔はそれこそ１日に何度もこうして泣いていたステラをあやしたものだ。
「どうした、ステラ。泣いてちゃ分からないだろう？」
　視線を合わせるように屈むと、首に腕を回してくっついて、「シンが」と言ったところでステラは言葉を止めた。と言うか言えなかった。視界の先に入った黒い固まりにステラは目を見張った。
「何でカンダがいるの！」
「ひよこ頭か。お前こそこんな所で何してる」
　ラミアスの酒場は旅人の斡旋所アークエンジェルの本部でもある。ギルド登録済みの神田がいるのはおかしいことではないが、ステラにしたらそんなことはどうでもいいことで、ただ神田が目の前にいること事態が問題なのだ。しかも姉とも慕っているアレンが側にいれば尚更だ。今更ながらに朝から姿を見かけなかったことに気づき、不覚だったとステラはよけいに不機嫌な顔になっていく。
「アレンから離れて！汚（けが）れちゃう！」
「なんだそりゃ…おまっ！」
　アレンから離そうと神田の腕を引っ張り呪文を唱えた。しかし今までに消費した魔力と疲れが出ていた体力に、呪文の発動が僅かにずれた。
「きゃっ！」
　吹き出た黒い霧、吸い込まれるように二人の姿が一瞬にして消えた。
「ステラちゃん！神田〜！」
　騒ぎに奥にいたマリューが飛び出してきた。
「どうしたの！？」
「まずい、早くキラに連絡しろ！」
「え？」
　いつもは飄々とし軟派な態度でいながらもどこか冷静に見回すムウの普段とは違う慌てた様子にマリューは緊急事態だと感じキメラを呼び出した。
「ステラが呪文の発動に失敗した！」
　それを意味するものは。下手をすれば死は免れない。
「何ですって…！」
　足下に魔法筒をくくり付けてると、キメラは羽を羽ばたかせて消えた。

「僕の、せいだ…」
　ペタリと床にへたり込んだアレンは二人が消えた場所を愕然としながら眺めることしかできなかった。



　ここはどこだろうと辺りを見回した。
　一面の花畑。明るくて、でも少し向こうは薄暗い。前にも来たことがある？そう思った時、後ろから声がかかった。
「あれ、ステラ？」
　呼ばれて振り向いた先に居たのは、翡翠の瞳の優しい青年…戦いの中、魔界で出会ったランスだった。



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20080314