SEED　QUEST〜記憶のかけら〜




　夢を見た。とても懐かしい記憶。
　あれはユニウスセブンにいた頃。小さい時によく遊んでくれた、剣術も教えてくれた優しく穏やかな声。
　あれは誰だったろう。

　目覚めれば居候させてもらっている大和屋の自室で、横を見れば隣のベッドには、昨日久しぶりに帰ってきたキラがまだ寝入っていた。
　窓から差し込む光はそれほど強くなくて、起きるには少し早いけれど。
　キラを起こさないようにアスランは部屋を出た。
「おはようアスラン君。今日はずいぶん早いのね」
　カリダが朝食の準備を始めていた。珍しく宿泊のお客様がいない朝で、そのときは大広間で全員で食事を取るのだ。昨夜は久しぶりにキラが帰ってきたから子供たちのはしゃぎようと言ったら、まるで大戦争だ。今日も後少ししたら騒がしくなるのだろうと思いながら、アスランは袖を捲って蛇口をひねり手を洗った。
「手伝います」
「ありがとうアスラン君。じゃあそっちのレタス切ってくれるかしら？」
「はい」
　トントンと包丁を叩く音とコトコトと鍋の煮込む音がリズムを奏でる。
「ほんとアスラン君がいて助かるわ」
「いえ、そんな…」
「本当よ？キラなんか言っても何もしないんだもの」
　魔術師のトップも母親からしたらボンクラ息子呼ばわりで形無しだ。
「キラは、大変だと思います。俺は…何もしてませんから」
　最年少で三大魔道士に就任したキラは、トップの座に就く者としてよくやっていると思う。更に今はカガリの、成人の儀と続けて行うアスランとの婚姻の儀の準備で走り回っていて、やっと得た束の間の休息なのだ。帰ってきた時くらいは少しはゆっくりさせてやりたいとアスランは思うのだ。
「何言ってるの。どの仕事も楽なものなんて無いわ」
　そう言ってカリダはアスランの鼻先へ指を伸ばすとちょんと弾いた。
「それにあの子、好きで動いてるんだから」
　双子の姉と親友の一大イベントなのだ、ここぞとばかりに主導権を握り城中大騒ぎなのは城下でも話は持ちきりだったりする。
　アスランを実の息子同様に育ててくれたカリダは、あの母の親友をつとめるだけあって強かで心の広い女性だった。
　痛みはないが何となくこそばゆくなって、アスランは頭をポリポリ掻いた。
「何か、あった？」
　思慮深いのも賢者としての特質か。
　カリダの問いに、あぁと昨日の出来事を思い出す。
　そんなに表情に出ていたのかとこぼせば、大事な息子のことですもの、とカリダは笑顔で言った。
　カリダに頼まれてキラを訪ねに魔術師協会へ行った時のこと。そこで偶然会ったのは水を戴く大魔道士ルルーシュ・ランペルージ。秀麗な顔は憂い顔も似合うと言ったのは誰だったか。しかしアスランを見ると一瞬にして険しいものへと変えた。
　え、と驚く間もなく詰め寄られる。
「お前が…お前のせいで…！」
「ルルーシュ様！」
　周りに止められ、我に返ったルルーシュは、だが悔しそうに唇を噛みながらきびすを返し立ち去った。
　余りにも苦痛に歪みまるで泣き出しそうな表情が脳裏に焼き付き、アスランはキラが来るまで動くことが出来なかった。

　アスランには幼い頃の記憶が所々抜けている。
　ユニウスセブンの事件は幼いアスランには耐えられなかったのだ。忘却することで心を守ったのだ。
　その記憶が思い出してきたのは旅の途中からだ。ザラ家に封じられていた勇者の力を取り戻したことも起因しているのだろう。嬉しいこと、悲しいこと。たくさんの人たちが自分の為に動いてくれた。失った命も多い。
　しかし未だに完全には戻っていない。思い出さなきゃいけないのに、何か大切な事を忘れている。
　ルルーシュを見て何故かその思いは強くなる一方だった。
「大丈夫、ゆっくりで良いんだから」
「カリダさん…」
「子供たち起こしてくれる？今日は満室になるから忙しいわよ」
　再びピンと鼻先を跳ねられアスランは苦笑しながら子供部屋に向かった。



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20080313