SEED QUEST〜メドローア伝授編〜
プラント領土内にある魔法学校。魔力のある子供は不安定で周囲を、そして自分の身も傷つけかねない。ゆえに魔力保有者は皆この学校で正しい力の使い方を学ぶ。その中で生まれついて強大な魔力を有する子供は、上位魔導士の管理下に置かれマンツーマンの形態が取られる。キラは現在唯一の特殊ケースの子供だ。
「いてっ」
空から不意に落ちてきた聖水の小瓶が、瞑想していたキラの頭に直撃する。
「キラ、集中！」
少し離れたテラスで魔動書を読んでいたポップが術を使ったのだ。
ポップは世界で唯一人の大魔道士の称号を得る魔法使いだ。普通なら上位魔道士が教官に着くのだが、キラは余りにも魔力が大きすぎ、そのレベルの人間では太刀打ちできないと判断した協会側の判断で、ポップに白矢が当った。当初反対していたポップだが、キラの揺ぎ無い精神と、強い瞳を見て下につける事に決めたのだった。
「も〜、だからってもの使うなんて酷すぎです！」
誰よりも早く強くなりたい。大切な人たちを守るために。
焦りすぎる帰来のあるキラは時折集中力を乱し、その度こうしていじめられる。
しかしポップから見れば、キラの事情を理解しているからこそ、時折茶化すことでこうして肩の力を抜けさせている。本人は気づいていないようだが。それも“息子”の為を思えばこそ、だ。
「集中してたらよけられるはずだぞ。戦場なら命取りだ」
確かにその通りなのでキラにそれ以上反論はできなかった。
「ちぇ〜」
痛む頭を撫でていたキラに、ポップは読んでいた本を閉じると立ち上がった。
「師匠？」
「午前の修行はこれで終わりだ」
見ればいつの間にかヒュンケルが立っていた。手にはサンドイッチとティーカップを乗せたトレイが。良い匂いがキラの鼻につくととたんにお腹が鳴りだした。
「現金な奴だ」
「育ち盛りと言って欲しいですね」
「このクソがき！」
たんにじゃれている二人をそのままにヒュンケルは手早くテーブルにセッティングしていく。
「出来たぞ」
ヒュンケルの呼ぶ声に、二人は中庭の小さなテラスへ向かう。年中花に囲まれたこの場所は一種のオアシスだ。
「サンキュー」
ヒュンケルがイスを引いて、ポップは迷うことなく席に座る。その自然な動作にキラはいつも感動を覚えると共に羨ましく思う。とても絵になるのだ。
ガタイの良いヒュンケルは見た目同様剣士である。腰に掛けた剣は飾りではない事は彼の戦歴を知れば納得がいくものだ。
何も会話をせずとも繋がっている二人のような関係を築くまでどれくらい掛かるのだろうか。しかし告白も出来てないのでそれ以前だが。
幼馴染の女の子。ピンクの髪でふわふわしていて。でも芯はしっかりしていて。プラント有数の貴族の少女は、しかしその天使の歌声で世界を魅了していてファンが多い。彼女もまた多少なりとも魔力を有し、普通クラスに通っている。姉を通して知り合った分ファンの子達よりお近づきではあるけれど。近くて遠い二人の距離。
「あ…」
少し離れた渡り廊下に学生が通り過ぎていく。その中に見つけたピンクの髪。
「お〜い、ラクス！」
ポップがおいでおいでと手を振る。
「師匠！！」
慌てるキラにニヤニヤするポップ。キラの淡い恋心を知っているポップのからかい半分と応援する気持ちと。
こういう所が質が悪いとはヒュンケル談だが。
「キラ」
ほんわか笑顔を向けるラクスにキラは先ほどまでの師匠に対する態度を変え緊張した面持ちになる。
「よぉラクス」
「ポップ様、ヒュンケル様こんにちは」
「今日は授業午前中で終わりだろ。昼一緒しないか？」
でも…迷惑ではと迷うラクスに、ヒュンケルがすかさずイスを引いた。様になるその行動にキラは叶わないなと思う。
「それではお言葉に甘えて」
会話は弾んだ。普段は男３人だ、やはり女の子が居ると場の空気が違う。
ラクスが今学んでいること、先ほどのキラとポップのやり取りのこと。オーブにいるカガリの事。会話が尽きない。
「さて、俺たちはちょっと席外すな」
「えっ？」
二人きりになることに焦っているキラがポップは可愛くて仕方が無い。
「ラクスも午後時間あるだろ。せっかくだから見てけよ。午後は呪文行くぞ、キラ。それもとびきり強力な奴をな」
「…！はいっ！！」
「では１の刻まで休憩！」
二人を残し、ポップとヒュンケルは席を立った。
「いいのか？」
ヒュンケルの言葉は今の二人に対してではない。ポップの言葉にだ。ヒュンケルには直ぐにわかった、彼が何を教えようとしているのかを。その呪文は一歩間違えば死を招く。キラもだがそれ以上にポップが心配なのだ。
「大丈夫、あれは禁呪じゃない。体力は奪われるがな。でもまだ数回は出来るぜ」
腕を上げて力瘤を作るが、見えた腕は白く細い。お前の逞しい腕には叶わないなぁとポップは笑って流すけれど。
「彼奴は俺の最初で最後の弟子だ」
キラにはそれに耐えうる力がある。そして用途を間違えることはない。
彼に待つのは孤独な戦いを強いられる友を支える役目。かつての自分と同じように。
ポップに残された時間は少ない。禁呪を使用しまくったため体がボロボロなのだ。
魔法使いは魔力の量に比例して長寿だ。故にポップは強大な魔力を保有しているため、遥かに長い時を生きてきた。しかし自分はもう十分すぎるほど生きてきたから。
「お前にもすまない事をしているな」
「俺が望んだことだ」
互いが互いを縛りつけ、だがそれは二人の望みであり幸せでもあった。
ヒュンケルにより体を鍛え上げられ、ポップによって古代呪文さえも使いこなすキラは、今までの魔法使いの中で最高で最強の存在となった。本人はそれに気づいていないようだが。
「なぁ、ヒュン。キラが卒業したらまた旅に出ようぜ。二人で、色んなところへ」
「そうだな…」
ポップは初々しい二人を遠めで見つめながらヒュンケルの肩へそっと頭を寄せた。
「今から教えるのはおれの師匠から授かった極大消滅呪文だ」
「極大…消滅呪文…？」
ポップとキラが対峙する。少し離れた場所ではラクスが静かにヒュンケルの隣で二人のやり取りを見ている。
緊張した面持ちなのはもう今更だ。
「おさらいだ。火炎系と氷系の呪文を答えな」
「火炎系はメラ、メラミ、メラゾーマ。氷系はヒャドにヒャダルコ、ヒャダイン、マヒャド」
ポップの質問に、キラは空で呪文を上げる。既にこれらの呪文は体得済みだ。一体これから何を教えようとしているのかキラには見当も付かない。
「そうだ。じゃあメラゾーマやマヒャドを極大呪文ていうか？」
「いえ…言いません…」
「そう、言わねぇよな。火炎系呪文も氷系呪文も熱エネルギーを操る魔法力を使うことは“同じもの”。ただそのエネルギーが正か負っていう差だけなんだよ」
そういってポップは左手にメラを、右手にヒャドを作り出す。
二つの違う呪文を作り出すなど聞いたことが無い。キラ同様、ラクスも驚いて口とに手を当てた。
「見ていろ、ラクス。そして祈れ。あいつが成功させることを」
「成功って…今ここで、ですか？」
「そうだ」
なんて過激な訓練なのだろうと、ラクスは驚きをあらわにさせた。
自分たちはただ力を安定させるためだけに安穏と授業を受ている間、キラは実践さながらもう呪文を使っていたのだ。もともとキラは両親の血を継ぎ魔力は高いことは聞いていたが。
余りにもレベルが違いすぎる…
「いいか、この正と負の魔法力をスパークさせたエネルギーこそがすべての物質を消滅させる最強の力なんだ」
魔道書にはそのような呪文は無かった。しかし体得すればこんな心強い呪文は無い。
「この呪文は成功させるのが超難しいんだ。火炎系と氷系の呪文を全くの互角のパワーで合成する技術が必要なんだ…だが決まれば無敵だぜ。相手がどんなに強力な奴だろうと、強度を誇る奴だろうと関係ない。何しろあらゆる物質を消滅させちまうんだからな」
禁呪では無いが多用すれば世界を消滅させてしまう呪文だ。だから魔道書には載せなかった。唯一伝えられたポップ以外に今では知る者も、使用できる者も居ない。
「それを…僕に！？」
「あぁ。極大消滅呪文…メドローアだ」
ポップは二つの呪文を一つにあわせ、右手を前に出し左手を後ろに引いて矢を打つようにキラへ向って構えた。
「し…師匠…？」
「この特訓はあきれるほど単純だぜ？この呪文を成功させるには二つの呪文を同時に、しかもバランスよく扱えば良いんだからな…」
「え…」
いとも簡単なことの用に言うが、単純に同じ力をと言ってもそう易々とできることではない。この状態で行けば、ポップはキラに向ってメドローアを放つことになる。
「この呪文は同じ呪文をぶつけなければ相殺できねぇ…つまりお前も…」
「そんな…いきなり！無茶苦茶だ！！」
「無茶じゃない、お前ならできる！」
「…！！」
「お前は何のために頑張ってきたんだ？」
そうだ、自分は何のために辛い修行を頑張ってきたのか。
友を助けるため。愛する者を守るため。
キラは深呼吸をすると、先ほどのポップがやったように両手にメラとヒャドを作り出した。思ったより作り出すのは簡単だったが、力のバランスが微妙に違う。もともと火炎系を得意とするキラだ、ヒャドの威力が若干弱い。
「氷系呪文を高めろ、キラ。さもないと腕が消えちまうぜ？」
「くそっ…！」
ニヤリと笑うポップだが、汗が滴り落ちている。先ほどから呪文を維持しているのだ、その疲労は半端ではない。
何とか魔法を合わせ構えることが出来たが、体から予想以上に魔力を消費してくのに気づく。これを維持しているポップの底知れぬ魔法力に圧倒される。
「行くぞ！」
「っ！」
「「メドローア！！！」」
強力な二つの呪文がぶつかり合う。相殺するには同じ力量をぶつけなければならない。しかし。
「くっ…」
僅かにキラの繰り出す氷系呪文が弱い。手が火炎の威力に押され燻っている。
失敗すれば自分が消えるだけですまない。側にいるラクスも…
それだけは絶対にダメだ！
「キラ！」
とっさにヒュンケルはラクスを身に引き寄せ庇う。呪文がぶつかり合った威力で風圧が強く、下手すればこちらも唯ではすまないからだ。炸裂し辺りに覆った光が集約していった先に見えたものは。
「キラっ！」
荒い息を付きながらも持ちこたえたキラがそこに居た。しかし立っていられずガクリと膝を付いた。
「キラ！大丈夫ですか！？」
「大丈夫だよ」
ラクスが慌てて駆け寄りキラの側で膝を付いた。心配そうなラクスにキラは安心させるように笑顔を浮かべて答えた。
「お前も無茶をする」
ポップも唯ではすまなかったようで多少ふら付いてはいるが、無事な様子にヒュンケルは心の中でホッと撫で下ろす。そっと腰に手を伸ばして支えてやり、キラの前まで進む。弟子の前で無様な格好は出来ないのが師匠としてのプライドでもあったりする。
「やっぱりお前は俺の最高の“息子”だよ」
ポップは誇らしげに笑みを浮かべた。
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メドローア伝授編。思わずダイ大18巻読み返しちゃった（笑）ポップはほとんどマトリフ師匠の言葉受け売りです。持ってる方は見比べて見てください（苦笑）キララクも初々しくて可愛いけれど、ヒュンポプが書いてて楽しかったｖｖすいません、趣味走りすぎですね（苦笑）
20070114
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