眩しさに目が覚めた。
ゆっくりと記憶を呼び起こす。
確か暗礁に乗り上げて…。
勢いに飛ばされて頭を強打しそのまま気を失ってしまった。
自分の代わりに舵をとってくれた人が居た…。
黒髪の…
誰だろう？
受験生にそんな人は居ただろうか？
それとも夢だろうか。
ゆっくりと立ち上がり、眩暈が無い事を確かめた。
誰かが治療してくれたようで、頭には包帯が巻いてあった。
痛みはそんなに感じないがそれでも気を使ってゆっくり立ち上がった。
外に出れば、昨日の嵐が嘘のような眩しい光が水平線よりゆっくり昇る。

ハンゾーと分かれた後、船内を歩き回り《姿》を探す。
この目で見るまでは安心できないからだ。

「おはよ、クラピカ」
甲板にはキルアと、そして熟睡しているゴンが居た。
「おはよう、キルア。ゴンは…寝ているのだな」
「あぁ。こいつ波に攫われそうになったらしいんだけど、甲板につかまりながら気を失ってたんだぜ〜」
おちゃらけた言い方だったが、その瞳は裏切って、とても優しいものだった。
レオリオを助けにゴンが向かってくれたとハンゾーが言った。
そのゴンがここに居るのだからレオリオは乗っているはずだ。
「後でお礼を言わなければな…」
呟かれた言葉にキルアはニアリと笑った。
「レオリオなら向こうに居るぜ」
「なっ！いきなり何を言う！！」
「違うのか？」

この子供には自分の心を見抜いている節がある。
ゴンもそうだが不思議な雰囲気がある。
クラピカは苦笑をもらしながらも、礼を言ってレオリオがいるという方向へと向かった。
少し進んだところで誰かの話し声が聞こえる。
その中に自分の目的の人物もあった。
ちょうど柱やなんやらでまだ姿は確認できない。

一歩進むごとに心臓の音が高鳴る。
昨日の自分を振り返ってみる。
失うかもしれないと思って。
こんなに取り乱した自分は初めてだった。
まさかココまで彼に心を奪われるとは思っていなかったのだ。
だから。

『レオリオは皆と下に居るぜ』
ハンゾーに言われた時ビクリとした。
多分彼にも分ってしまっているのだろう。
背中を押され、考えなくても進む足に呆然とした。


自分は彼を求めている。
それを自分は確信してしまった。
背を向けていたのに、タイミングよくレオリオは振り返った。
「ようクラピカ！昨日はご苦労さんよっ」
レオリオの笑顔が…眩しい。
床が無くなってしまったかのような錯覚。
気を失うかと思った。
「クっクラピカ！？」
とっさに駆け寄ったレオリオによって、倒れるのは免れたが他の人間が見ているところでの失態にクラピカは赤くなる顔を見られたくなくて伏せた。
クラピカの頭に巻かれた包帯に気付いてレオリオは目を細めた。
「こいつ部屋につれてくわ」
レオリオは一度後ろを振り返ってトンパたちに声をかけてからクラピカを抱き上げた。
「わっ！」
「いいから黙ってろ」
クラピカは反論しようと口を開けたが、逞しい胸板と、なによりもレオリオの匂いに安心していまい、頭を預けた。


「頭…大丈夫か？」
ベッドの上に座らせると、レオリオは頭の包帯に手を伸ばした。
「あぁ…」
もう今はなんとも無い。
「ちょっと待ってな」
そう言って、レオリオはカバンの中をあさり、常備していた包帯と薬を取り出した。
「痛かったら言えよ」
触れてくる手にクラピカは心音を踊らす。
解かれる包帯の下には少し血に濡れた金糸の髪。その部分の地肌を触診して、小さな傷と、こぶだけで済んでいることを確認すると、クスリを縫って再び包帯を巻いていった。
「特に大丈夫そうだが…頭ってのは結構ヤバイからな。何かあったら言うんだぞ」
その言葉に、だがクラピカは首を振った。
「クラピカ？」
クラピカのその意味を分りかねて、レオリオは顔を覗き込んだ。
「クラピカ…？」
もう一度名前を呼んだときにぽたりと手の甲に落ちたものがあった。
何かと思ったときに見上げられたその頬に伝うのは。
涙、だった。
「クラピカ…」
あまりにも苦痛にゆがめられたその瞳は燃えるような、《緋》に変わっていた。
深紅の、世界でも秘宝の一つに数え上げられる、それ。

「もうだめかと思った…！」
レオリオは目を見張った。
「二十余名の命と…レオリオの命。比べてはいけないのに…お前を選んでしまったのだ私は…！！」
「クラピカ…」
クラピカからの告白。
流れ落ちた雫に、レオリオは胸を痛める。
辛い選択を強いてしまったのだと…。
「すまなかった…」
流れる涙を唇で拭う。
「でも、サンキューな」
「レオ…ん…」
そしてそのまま辿るようにして、その唇をふさいだ。


外から飛行船の音がする。
次の試験は…もう直ぐ。
だからその時までは邪魔をしないでほしい…。
二人はひと時の安らぎを得るため互いの温もりを逃すまいと抱き合うのだった。







軍艦島ラスト部分のお話です。あのクラピカの乱れ様は見ていて楽しかったですわ〜。私も最近意地悪さが悪化しております（苦笑）
なんだかんだ言ってはなれられないんですよね、この二人は。
体ばかり大人になってるのにそれに反して幼い恋。
レオリオはクラピカに会うまで一体何人の女性相手にしてきたのでしょうか？
（案外男も含まれていたりして…ピエトロとか…？きゃっ！）
年末年始は面白いテレビが無くてこまります…。
2000/12/29　緋絽晶子