初めての対面で感じたことは。
　敵−−−−−！
「どうしよう、巽」
　えぐえぐと泣きじゃくる都築を再びベッドに寝かせると巽はそっと頭をなでた。
「大丈夫ですよ」
　本当は、彼のこんな姿は見たくなかったのだが。
　どうして彼ばかりがこんなに追いつめられなければならないのか。
「ほら、もう泣き止みなさい」
　暫くすれば少しは落ち着いたのか大人しくなる。
　ぬれた瞳が、まっすぐに自分を移す。
　目眩がしそうな、妖しい瞳。
「さぁ、都築さん。おやすみなさい」
「巽ぃ」
　甘えるようなこういう仕種を見せるのは多分自分の前だけだろうと確信している。とくに現パートナーである密かには絶対に見せない。
　こうして時々都築はすがるような目で自分を見る。助けを求めているのは分っているが、自分はその手を今まで拒んでいた。
　彼の心は深すぎて、自分には救い上げることはできないと。
　大切だからこそ、傷つけたくなくて逃げていたのに。
　逆にそれが彼を追いつめることになっているのも分かってはいたが…。
　しかし今回のことで、彼の心は悲鳴を上げている。
「お願い…寝るまででいいから」
　側にいて。
　都築の真剣な表情に巽は一瞬強ばるが、それでも。
「大丈夫ですよ。私は…あなたの側にいますよ」
　笑顔を向ければ都築もつられて笑顔を見せた。
　その拍子に流れた涙を指でぬぐってやる。
「だから、ゆっくりお休みなさい」
「ありがとう巽、おやすみ」
「おやすみなさい、都築さん」






　そう、今はゆっくりと…。
　これから厳しい状況になるのは目に見えている。だから今だけでも彼に安らぎを与えられるよう祈る。
　額に触れるだけのキスを落とせば、くすぐったいのか少しだけ身じろいだ。暫くすればまた寝息が聞こえてくる。
　都築の安らかな寝顔を見るのは初めてだった。
　あの頃は…一緒にいた頃はいつも自分を責め、夢でも自分を追いつめるのかいつも苦しい表情を浮かべていた。
　今は、自分がいるから、見せているのだと己惚れでも思いたい。
　小さく口元に笑みを浮かべると、瞬時に顔が変貌する。
　絶対に相容れることのできない人種はいるもので。
　名を聞いた時から不快感だけが広がっていた。そして都築と密に接触をはかるたびに嫌な予感がしていたのだ。
　もっと早く対処していれば、彼をこんな目に合わせることなどなかったかもしれない。これは自分の選択ミス。
　都築を泣かせ、そして苦しめた。
　もう二度と見たくはなかった彼の涙を…二度も
　見つめる先は…邑輝一清。
「絶対に…許しません」
　ぜったいに。彼だけは許せない。
　大切な、彼を苦しめ、そして追いつめた。そして何よりも彼の髪や身体に触れた事さえ許せない。
　地の果てまでも追って、都築の苦しんだ倍以上の苦しみを与えるてやる…。
　巽は、都築の安らかな寝顔にそう誓うのだった。