| ＷＩＳＨ〜願いがかなう瞬間〜 |
助けて、だれか私をここから出して… この躰に雁字搦めに絡み付いている鎖を自分では決して外すことはできないから… それは悲痛にもにた祈り…。 −デュオSIDE− 助けて…。 「ん？」 誰かに呼ばれたような気がしてコックピット内なのに振り向いた。 「気のせいか？なんか声が聞こえたような…」 PiPi！ 燃料が０に近づいた事を伝える発信音が機内に響く。 「げっ、やべっ。なんで燃料がもう無いんだ？この間入れたばっかなのによぉ…。あっそうか、この間の戦闘の時だなったく、やんなるよなぁ」 ぶつぶつ文句をいうのはガンダムデスサイズヘルを操るパイロット、デュオ・マックスウェル。 「んー、どうすっかなぁ…」 自分の育ったＬ２コロニーがもう少し行けばあるのだが、何分そこまで持つかどうか。 モニターで辺りに物資調達ができるコロニーが無いか調べていたら、１０kmほど先にコロニーを発見した。 「ラッキー」 でもふと思った。 「こんな所にコロニーなんてあったっけか？」 気にはなったが、また何時敵に襲われるとも限らない。早めに対処できるならそれにこした事はないと、デュオは名も知らぬコロニーに不時着した。 そしてデュオはそこで消息を絶った。 −ヒイロSIDE− Ｌ２コロニーに人工の夜が訪れる。 しばらくの滞在のために取ったアパートの一室で薄暗闇の中ヒイロは忠実に任務を遂行していた。 Ｌ２コロニー、デュオの育った場所…。 『いい思い出は無いけどな…』 寂しそうに沿う板デュオの面影が脳裏に蘇る。 PiPi！ ヒイロ個人の特別回線に通信が入った。 『お…答…ねが…』 聞き取りにくいがこの声は女性のもの。この回線は特別でＧ関係者しか知らないはずでその中に女性は一人も居ない。 怪しげに思いながらもなぜか出なければならないような気がしてヒイロは回線を開いた。 『あなたは…ヒイロ・ユイですね』 声からしてリリーナでもあのヒルデとかいう女の声とも違う。よくとおる透き通った声。自分が知らない人間がなぜ自分お名前を知っているのかと怪しげに思ったが。 「なっ！！」 はっきりと繋がった映像に出てきた人物は…。 一瞬何が起こったのだろうかと疑ってしまう程、その人物は似ているのだ。声や話し方、身体のラインを見れば一目瞭然別人だとわかる。しかし仕草や雰囲気は紛れも無く、自分にとって気になる存在そのもの。姿形が似ていてもこれほどまでに似ている人間はいるのだろうか？ 何も答えられないヒイロに画面に映る女性は笑みをこぼすと急に真剣な顔になった。 そしてその口から綴られた言葉は…。 『デュオ・マックスウェルはここにいます』 思いがけない彼女の言葉にいつもの無表情が僅かに変わった。 『ごめんなさい。こんなことを頼めるのはガンダムパイロットの貴方達だけなの…』 伏せられた横顔、頬から零れ落ちる一筋の涙。 デュオが…泣いている…？ 目の前の女性とデュオがだぶる。 「その依頼を引き受けて俺にメリットはあるのか」 そう言ったのは自分がデュオを助けに行く口実を作る為の無意識に出た言葉。 『ある情報を提供するわ』 胸元に掛けてある十字架を弄びながら彼女が言った。 「情報？」 『過去のこと、未来の事。ＯＺのこと…ホワイトファングのこと。そしてデュオの全てを…』 デュオのすべて…。 彼女が何処まで知っているのか分からない。だが…。 「場所は」 簡潔に話を済ませてヒイロは回線を閉じた。 「デュオ…」 ヒイロの呟きが静かな空間の中で響いた。 −プロローグ− ある日、マザーが教えてくれた。私をここから救ってくれるものが現れると。 それは紛れも無くもう一人の私だと…。 幼い時、探査船の事故により、いち早く危機を感じた両親は私とあの子をそれぞれ小型ポットに乗せて脱出させた。しかし両親は私の目の前で殺され、私は運悪く囚われの身となった。先に脱出させたもう一人は無事…とも言えなくも無いが民間船に救助され、Ｌ２コロニーへと流れついた。 何度ここから逃げ出そうとしたかわからない。私を逃がす為に力を貸してくれた人たちはみんな私の為に殺された。 もうあんな想いはイヤ。 私を想ってくれる人が私の為に死んでゆくのを。そして目の前で消えてゆく命を見ているだけで何も出来ないのを…。 だけどやっと願いがかなう。 今は眠りの淵に落ちている最愛の弟に口づける。 唇ではなく額に。唇は先ほどの彼が怒るだろうから。 すぐに分かった。彼がこの子の大事な人だと。そして少なくとも彼もこの子に何かしらの感情を抱いている…。 やっぱり姉弟の好みは似るのだろうか？先ほどの彼、ヒイロ・ユイは目の前で殺されたあの人にとてもよく似ていた…。 懐かしい記憶が蘇る。 もうあの日は戻ってこない…。 涙がそっと流れた。 カードは全てそろった。 この子が…デュオが目覚めた時、運命のカウントダウンが始まる。 不運だった数々の祈りが、今…成就される…！ 1997/3/2発行 WISH〜願いがかなう瞬間〜 |