『暑い日に』






　ミーンミーンミーン。
　遠くでセミの鳴き声が聞こえる…。
　時折頬を掠める心地よい風。
　暑いけど、気持ちよくて。


「デュ…」
　もうお昼だからと、デュオを呼びに行くようカトルに言われて捜していた。
　いつもならすぐ見つかるはずの三つ編みがなくてあちこち捜していたら、
　丁度大きな木の下に出来た陰の、芝生の上に寝転がってデュオは眠っていた。
「ん…」
　いくら木陰だと言えど、三十度を越す気温の中ではさすがに汗はかくものだけど。
　そんな姿は初めてだった。
　人が側にいても起きないのは、戦時中なら即命を落とす事に繋がるが、
　平和な今だからこそできること。
　それでもついた習性を直ぐには拭い去ることはできない。
　だからここまで側にいることを許しているのは自分だけだと思いたい。
「んんっ」
　未だ起きようとはしないので実験をしてみることにする。
「ム」
　鼻をつまんでみる。
「ムムムム…」
　よほど深く寝入っているのだろう、多少声を上げることはあっても起きる気配がまったくない。
　薄く開いた唇からは忙しない寝息が聞こえてくる。
　触れてみれば暑さに水分が飛ばされて少しかさついていて、熱い息が規則的に指にかかる。
　先ほどまで鳴いていたセミの声が聞こえなくなる。
　風が、止む。
　唇から、目が離せなくなる。
　何かで読んだことがある。
　眠る姫君を起こすのは王子の役目だと…。
　本当に起きるのかと、ただ何気なく思っただけなのだが。
　そっと、優しく。触れるだけの。
　それでも何故か鼓動が早くなるのを感じていた。
　とても永く感じて、でも実際はそれほどでもないことは正確な体内時計が教えてくれるけれど。
　ゆっくりと、眠り姫は深い眠りから目を覚ます。
「あっひいろぉ〜？おはよぉ」
　寝ぼけ眼の上にまだ半分戻ってきていないのかロレツが回っていない。
「さっさと起きろ。もう昼飯だ」
「えっ、もうそんな時間？呼びに来てくれたんだ〜」
　たった今まで眠っていたのに、思っていたより低い体温にドキリとするが、
　それも触れている部分が次第に熱を持っていく。
「カトルが煩いからな…」
　嬉しそうに抱き着いてきるデュオに悪い気はしない。
「ヒ〜イロっ」
　再びセミの鳴き声が届き、風が優しく吹き始めた。
　太陽の下に出れば歩くだけで汗が出てくる。
「今日は、もっと暑くなるな」
　空を見上げるデュオにつられて空を見上げる。
　どうやらデュオは先ほどのはヒイロの行動には気づいていないようだ。
　何故かホっとする。
　でも輝く太陽だけが知っている。

　それは秘密の…。






1999/7/21発行

みちやさんが、お友達の所へお泊りに行くために早く仕上げなければならなかったのを覚えています。
神奈川の…平塚ですか、から会場まで車を飛ばしたと伝え聞いています（笑）

この時期は暑い日が続きますから。自分だけ暑いのはずるいぞ、ということで書いてみました。しかし書けばよけい自分自身が暑苦しくなってしまった、というところも在りますが（苦笑）