スクールデイズ
　　〜パソコンルーム〜




「じゃぁ、気をつけてな」
『はい！』
　現在の選ばれし子供達である５人が、元気良く返事をすると、各自Ｄ−３をモニターに向けた。
　途端にモニターは光りだし、子供達はデータへと変換されて画面の中へと吸い込まれていった。
　いつもテストに部活のバンドにと、パソコンルームに来る事が少ないヤマトだったが、今回はちょうど部活が急遽休みになったこと、太一や空、そして一番この場所へ訪れている光子郎も用事があるとかでこれなくなった事。特に用事も無い事からみんなの様子も見るべく久々に訪れたのだった。
　前もって連絡をいれていたわけではなかったせいで、弟・タケルは笑顔で迎えてくれた。久しぶりの兄弟対面でもあったから、その喜びようはハンパでは無かった。
　太一シンパの大輔は、ヤマトが来る事で太一も来るのかと期待して頬を紅葉させていたが、来ない事を告げると急にシュンと落ち込む始末。
　そんなこんなで、自分が待機する旨を伝えて、頑張って来いと一言告げると、子供達はデジタルワールドの復旧作業に出かけていった。
　途端に静かになる教室。
　画面上では時間が進むにつれて、黒いマスが白く変わっていった。
　向こうでダークタワーが確実に壊れている証拠だ。
　現実世界では水色だった空がゆっくりと橙に染まっていった。


　誰かがこちらへ走ってくる足音が聞こえた。
　一瞬、先生かと気を張るが、大きくなるその足音の法則性に相手が判明し、ヤマトは半分上げていた腰を下ろした。
「ヤマト！」
　バン、と扉が開いたかと荒げる息もそのままに、ずかずかと歩み寄るのは予想違わず太一だった。
「お前何息切らしてんだよ…」
　ヤマトは呆れた顔して、隣の席に着いた太一を見やった。
「だって…お前…行くなら行くって…言ってくれても…いいのにさぁ…」
「お前部活だろう？エースストライカーさん」
　嫌味っぽく言ったのに気付いただろうか？
　ヤマトは視線をそっと泳がせた。当の太一はまだ机に突っ伏したままだ。
　もうじき試合があるからと、次期キャプテン候補の一人である太一には、みんなの期待もかかって忙しい毎日を送っていた。
　今がどんなに大事な時期か、ヤマトももちろん分っていた。が、それでも土日もサッカーで二人っきりで会う事すらままならない現状にいらだっているのは何も太一だけではない。
「ヤ〜マト〜」
　臍を曲げてしまったヤマトに太一は後ろから抱きしめた。
「俺ってばお前がいないとダメ人間だからさぁ…」
　慰めて〜と甘えてこられて悪い気はしない。だがココは小学校のパソコンルーム。何時誰が何処で見られているか分らない。
　無常に太一を引っぺがすと、ヤマトは再び画面に視線を戻した。
　だが太一は見逃さなかった。
　ヤマトの耳たぶが赤くなっている事に。
「へへっ」
　それだけの事に嬉しさがこみ上がる。
　好かれている、それだけで自信がつく。
　ポン、とメールソフトが音を鳴らし、メール画面が開いた。
　相手はデジタルワールドに行った京から。
　特に問題はなし。復旧作業も一段落ついたのでもうじき帰りますという内容だった。
　返信ボタンを押して気をつけて帰ってくるよう書くと送信ボタンを押した。
「あいつらもうじき帰ってくるってよ」
　そう言ったのと、顔に影がかかるのは同じだったか。
　太一はモニターの前へと遮るように頭を出すと、そのままヤマトの唇をふさいだ。
「んっ…」
　久しぶりの感覚に、体が熱くなってゆく。
　もっと感じたいと、体が暴走していくのが分る。
　先ほどのやり取りも忘れて。
　ここが何処だかも分らなくなって…。
　太一の舌を受け入れようと唇を開いた瞬間。

《ぱぁぁぁぁぁぁ》
『ガチっ』
『ドサドサドサっ！』
「いっ……っ！」
「がぁぁっ！」
「いって…何だよ…あっ太一センパイvv」
「お兄ちゃんっ！？」
　ヒカリが嬉しそうに後姿を向ける太一に寄った。
「どうしたの…？」
　唇を抑えたまましゃがみこみ、涙を流す太一に、ヒカリは怪訝な顔を向けた。
「太一センパイ！どうしたんっすか！？」
　大輔も駆け寄ってきたが、今の太一に言葉を発する事は不可能というもので。

　もう一方、ヤマトはと言うと…。
「お兄ちゃん………」
　ヤマトと、太一とを交互に見合い、タケルは一言、周りに聞こえないよう呟いた。
「もうちょっと、時と場所を考えたら…？」
　最近めっぽう逞しい言い方になってきた弟に寂しさを感じつつも、言われた内容にヤマトは右手で唇を抑えながら顔を真っ赤にするしかなかった…。




　おまけ


「うぐっ！」
　珍しく、テーブルに並んでいるのはいつもよりも豪勢な料理ばかり。しかも自分の好物だらけ。
　にも関わらず、一口だけで限界だった。
「ごっそさん…」
「太一。何、あんた食べないの！？」
　いつもなら人の分まで食べる勢いなのに、太一らしからぬ行動に母親は心配げに声をかけてきた。
「………」
　無言のまま、太一はついていたＴＶのチャンネルを変えてソファに深く座った。
　太一の行動を見送ってから、ヒカリは母に向き直る。
「唇ぶつけたんだって」
　光は太一にも聞こえるようにわざと大きい声を出して言った。
「（///）ヒカリ！うるへぇぞ！！」
　バレているとは思っていたが、まさかこう報復してくるとは思わなんだ。

「は？」
　母親が頭の上に疑問符を浮かべるだけだった。








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ギャグですね…。あまりにもオバカすぎですわ…。あの勢いで、よく前歯が折れなかったものですわね（笑）
ヒカリちゃんはお兄ちゃん一番です。なのでヤマトに対しては小姑です。だって、大好きなお兄ちゃんを奪った人ですものね。少しは苛めたくなりますよねぇ（＾＾）ただ今回は太一さんにもお怒りの様子（笑）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 2001/3/31　緋絽晶子