スクールデイズ
　　〜卒業〜



桜が咲きだすこの季節。
今日、俺達はついに小学校を卒業する。
つまらない、退屈な式。欠伸を堪えつつ、式は滞りなく進められた。
まぁ、俺が証書を貰う時に、自称ファンの下級生共から名前呼ばれたりして、先生が慌てて動いていたことを除けば、な。
「仰げば〜尊し〜」
どんなに沢山の生徒が歌っていても、ヤマトの声だけは聞き分けられる。
既に変声期を迎えたテノールボイスが心地良い。
最後の年なんだから同じクラスになれればよかったのに。
それだけが心残り。まぁ中学で期待すれば良いだけだが。
（どうせ持ち上がり状態だから、大して顔ぶれは変わらない）
式が終わり、最後のＨＲ。
藤山先生が珍しく涙を見せたのに驚きつつ、騒ぎになる前に早々に避難した。
これは正解だ。後から空から聞いた話だが、沢山の女子が来たそうだ。あまりの凄さに、一時教室はパニック状態になったとかならないとか。
モテル男は辛いねぇ（笑）
「よっと」
裏庭に１本だけ咲く桜の木によじ登り、そこから見える海を眺めていた。
もうここから眺めることも無くなる。それも卒業なのだと、今更ながらに思った。
自分に似合わずしんみりとしてしまったが、今日だけだから…いいだろう。
目を閉じて、聞こえてくるさざなみに耳を傾け余韻を感じていた。




「ヤマトく〜んっ！！」
何故自分はこうして学校内を走り回っているのだろうか？
こんなにたくさんの女子に追い掛け回される事など今まで一度も無かったのに…
よくドラマやマンガで、卒業式に好きな男子のボタンを欲しがるシーンを見ていたけれど、それが自分にも該当するなど思ってもいなかった。第一、ボタン以前にこの服はタケルへのお下がりにもなるから、絶対に汚すわけには行かないのだ。
上がる息もそのままに、廊下をグルグル走り回り、女の子を散らしていく。
なんでこんなにタフなんだ？
残る数名も何とか振り切り、そのまま太一と約束していた場所へ向かった。
流石に裏庭は静かで。時折校舎内から女子の、自分の名前を呼ぶ声が聞こえたが、もう無視だった。
「えっと…」
確かこの辺…。
そう思って奥へ進んでいくと、そこには１本の桜の木が。
周りの色に染まらず、そこだけ一際明るい桃色。大量に花を咲かせていた。
「うわ…」
感嘆の息が漏れる。惹かれるように側にくれば、上の方に人影が。
それは自分の探していた人物でもあり。
「太一！」
呼んでみたけど返事がない。
怪訝に思いながらも、上からの景色にも興味があり、そのまま枝をよじ登った。
桜の花びらが、まるで雪のように降ってくる。
幻想的な風景に気をとられながらも、ゆっくりと太一のいる所まで辿り付いた。
「太一」
名前を呼んで。
呆れた。
熟睡してるじゃないか！しかもこんな所で！
器用な奴だなぁと感心しつつも、下手したら３メートル下まで落ちてしまったらシャレにならない。
自分の体制を整え、太一を起こすべく手を伸ばした。





「……ち…太一！」
目を開いて驚いた。ヤマトの度アップがそこにあったから。
「う…うわっ！」
落ちそうになり、とっさに樹に掴まった。
「あははっ」
「わっ笑う事ねぇだろっ！第一落ちそうになったのお前のせいじゃんかっ！！」
仕返しとばかりにヤマトへ手を伸ばし、脇をくすぐった。ヤマトの弱点の一つだ。
案の定慌てて、でもバカだから腕を離しやがった。
慌てて体を引っ張り寄せる。すると自然に抱き合う格好になり。
別にヤマトとはもう体を重ねる関係だ。こんなことだって今更だ。なのに急に恥ずかしくなってしまった。
ヤマトもそうなのだろうか、顔を真っ赤にしている。
可愛いヤツ。
式が終わったら一緒に帰ろうと思い、ヤマトと約束していた。
最後だから、という女の子の気持ちは分らなくも無い。
好きな人といつも一緒にいられるのは嬉しいものだが、特別な日にこそ一緒に居たいと強く思うから。


「色々あったな…」
「あぁ…」
本当に色々あった。
あの奇跡の夏から。まだ１年と半年しか経っていないのに。
友達だけでなく、《親友》と呼べる人まで出来てしまった。
今は微妙に形を変えてしまったが…。
「太一…ありがとな」
彼のおかげで、自分は変われた。最初は反発や戸惑いもあったが。
それを乗り越えたからこそ、今の自分がある。
父や母の愛情も。
感じ取る事ができたのだから。
自分は太一からたくさんのものを貰った。
なら自分は、その何分の一でも返す事ができたのだろうか？
太一の顔を、チラリと除くように見れば、ばっちり目があって。
嬉しそうにじゃれてきた。
「バーカ」
それだけで自分も嬉しく感じてしまう。悪態は照れ隠しだ。
でも、太一はきっと気付いてるだろう。
それだけ互いの癖が分ってしまうくらい、一緒にいるのだから。



「お兄ちゃん！、ヤマトさん！」



「ヒカリ〜、空っ！」
下できょろきょろしている二人の姿を見つけて声をかける。
「太一、ヤマト！来るの遅いから、呼びに来たのよ！」
ヒカリと空が呼びにきた。
この後は、うちの家族とヤマトのおじさん、そして空のおじさんとおばさん交えて一緒に会食だ。
「今行く！」
先に待ってるわよ、との空の言葉を最後に、また辺りは静かになった。
もう少し二人でいたかったが、そうも言ってられない。
先に降り出そうとしたヤマトの腕をひっぱって止める。
不思議そうに振り向いたところですかさず顔を近づけた。
「ん…」
最初驚いて見開いていたヤマトの瞳が目の前にある。夜明け前の海を写し取ったような、少し紫がかったブルーアイズ。
この先も、ずっと見ていたい色…。
それがゆっくり閉じられてゆく。
そして俺も続いて目を閉じて。互いの唇の、口内の感触を楽しむ。

小学生最後のキス。
それはとても甘く、また切なくて。
俺達はこうして１歩大人への階段を上った。






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卒業式シーズンでございます。卒業された皆様、おめでとうございます。
この間たまたま母校である中学の前を通りかかりましたら、ちょうど男子生徒が女子生徒３人くらいに囲まれて、学ランのボタンを取って、あげていました。私の頃も、そういうのあったなぁと懐かしく思いました。
それにしても…私の頃は卒業式はもっと遅かったような気がするのですが…。
春休み。事故を起こさない様楽しんでくださいね。学生という身分を大いに活躍してくださいね。（映画…大人料金はやっぱり高いですよ…／泣）

2001/3/10