スクールデイズ
　　−音楽室編−



放課後の台場中。
校内に静かにピアノの音が流れる。
窓から差し込む夕日が、金の髪が弾いた。
白く細い指から紡がれるメロディーは昔教えてもらった曲だった。
家族が家族であったときに母親から教えられたもの…。
「…っと」
曲がプツリと止まった。
この先は覚えていない。
むしろココまで弾ける自分の記憶力の方がすごいのかもしれない。
思い出そうとして、しかしそれはかけられた声に阻まれた。
「なんだ、終りか？」
何時の間にか太一が扉に寄りかかっていて。
「あぁ…もう覚えてないから」
素直に答えた。
「母さんが…教えてくれたんだ…」
つまりは両親が分かれる前…光が丘にいた頃だと、暗に告げていた。
「そっか」
太一はそれだけ答えると、ヤマトの隣に立って鍵盤に手を当てた。
流れた曲は。
《猫ふんじゃった》
「ぷっ、お前らしいっ！」
太一の少し骨ばった指が、１音も外すことなく音を鳴らす。
珍しいこともあるもんだ。
最後まで引き通すと、鼻高々で、どうだ！とヤマトを見た。
が、ヤマトは黙ったまま太一を見て、それから鍵盤を見た。
「違うぞ太一」
ヤマトが弾いたのは同じ《猫ふんじゃった》でも、最後が太一とは違うメロディだった。
「えっ？ヒカリはこうやってたぞ！」
「違う。こうだって」
二人争うように鍵盤を弾いて。
そして手が触れる。
笑っていた声は今は止まって。
下校時刻を知らせるチャイムが流れた。
自然と近づくお互いの顔。
そして時が止まる…。

淋しい記憶が、優しい記憶に変わる。


「夕飯オムライスな♪」
ニカッと太陽のような笑顔を向けた太一を眩しそうにヤマトは目を細めて見た。
太一のおかげで、嫌な事はもちろん嬉しい事も楽しい事も。
色んな事を知った。
自分は貰った分だけ太一に返す事はできるのだろうか？
「ピーマン入りな」
わざと太一の嫌いな食材も入れる。
「げ〜っ」
本日は父親も仕事で朝帰りだからきっと太一は泊まるのだろう。
布団用意しないとな…などと思いながら、太一に負けないようにヤマトも笑顔で答えた。






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学園シリーズ第２弾、太ヤマでお送りいたしました。自分で考えていたよりも落ち着いた二人でした…。太一さん大人ですわ、くすす。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 2001/2/5　緋絽晶子