光届く場所
英の体から分かたれたイグドラシルは、制御を失い暴走を始めた。英の僅かばかりの意志がイグドラシルの強行をくい止めていたにすぎない。
大の腕の中でぐったりする父は、幾分顔色は悪いが命に別状はないようだ。強靱な肉体と精神力をもつ英だからこそ、この程度ですんだのだろう。
「トーマ！」
「何とかする方法は無いのか…？」
トーマはモバイルを開き、キーを弾いて検索するが、映し出されるのは全てエラー表示を示すだけ。
イグドラシルはデジタルワールドの意志でありそのものだ。“意志”を倒すと言うことは、デジタルワールドの崩壊、しいてはリアルワールドの崩壊をも意味する。
攻めても駄目、守っても駄目。
「それでは方法がないじゃないか…！」
トーマは悔しい思いにかられ、思わず壁に拳をぶつけた。
現時点で揃っているロイヤルナイツは“意志”の下でしか動くことは出来ない。“意志”を反する事が出来ないジレンマに陥り身動きがとれないのだ。
そんな中、舞い降りてきた一体の子龍。
「ドルモンだわ」
「ドルモン？」
ロゼモンの言葉に腕の中いにる淑乃がオウム返しのように繰り返した。
かつてイグドラシル暴走の折り世界を救ったアルファモン、その成長期の姿。
ドルモンはまっすぐ大の目線まで降り、手にしていた光を大へと伸ばした。
「これは…？」
光は大の手に収まると、輝きを変えて大へと語りかけた。
“私はデジタルワールドの安定を望むもの”
「安定を望むもの…？」
「大、君は何か聞こえているのか？」
光の声は大にしか聞こえないようだった。
見えない闇、孤独と絶望。もがき苦しみ救われぬ魂。淀みは“意志”をも飲み込んだ。
そうして訪れたデジタルワールドの異変。
ダークマスターズの横行、アポカリモンの出現、ダークタワーより造られし命、インスマスの勢力。デリーパーの脅威に次々堕ちてゆく天使達。
全てはイグドラシルの異変が及ぼした結果だ。
狂った意志はデジモンも人間も見境無く消していくだろう。
「方法はねぇのかよ？」
イグドラシルは昔一度だけ暴走したことがある。増えすぎたデジモンを排除する動きに出たのだ。《Ｘプログラム》を発動させデジモンの消去を執行したのである。
小さく弱きデジモン達は次々命を奪われた。デジタマに戻ることなく、再生の道さえ閉ざされたのだ。
その中で進化していった僅かばかりのデジモンは《Ｘプログラム》に対し抗体を持つことに成功する。
それが“Ｘ抗体”。
しかしイグドラシルはそれを是とせず、Ｘ抗体をもつデジモンの排除をも始めたのである。
イグドラシルの暴走は、ドルモンがアルファモンに進化したことにより事態の終息を迎える事ができたのだが。
人の…倉田の野望の前に、欲望を直に受けてしまうが故に為、再び事態は急変してしまった。
「再びあの悲劇を繰り返したくないんだ」
助けてほしいと、ドルモンは言った。そしてそれができるのは英の血を受け継ぐ大にしかできないと。
「なるほどね」
この世界を救う方法、そして自分のすべき事が見つかった。
「ちょっと行ってくるわ」
大の顔は穏やかだった。
「大！これは喧嘩じゃないんだぞ！！」
「喧嘩だぜ。それも俺の一生をかけたな」
やってやろうじゃないか。
こうなった大はもう誰も止められない。
仕方ないなと、トーマは苦笑いを浮かべながら大へ寄った。しかし、それは大によってはねつけられた。
「お前は来るな」
まさか止められるとは思っていなかったトーマは驚きを隠せない。
「お前、妹の病気を治すって言っただろ？」
トーマは大たちを裏切った振りまでして妹を助けた。病気を治してみせると、父親とそして妹にも誓ったはずだ。
大も妹がいる身だ、トーマの気持ちは痛いほど分かる。
「約束は違えちゃいけねぇ」
その事を持ち出されたら、トーマは伸ばした手を下ろすしか出来なかった。
「待ってるからさ、お前が来るの」
だから約束を違えるな。
「分かった」
上げられた拳を付け合わせた。
大の揺るぎ無い瞳に見つめられ、トーマは決意を新たにする。
「淑乃、すまねぇ」
せっかく望んだ父との再会は大の期待を大きく裏切る結果となったが、助けられただけでもう十分だ。隠れ基地に残したままの小百合と知香。何も言わずに行くことは彼女たちを悲しませることになるけれど。
事態は一刻の猶予を争う。
「大丈夫。後のことはやっておくから」
今更フォローの一つ二つ増えるのも大差ないと。
大はアグモンと共にドルモンの背にまたがった。
羽ばたく翼が風を作り出す。
「大！」
ほんの一瞬、重ねられた唇。
「必ず、行くから！」
これが最後の別れではないから。
笑顔で旅立とう。
大達の姿はデジタルワールドへと消えていった。
空を覆っていたデジタル空間は、幻影のように消えていった。
必ず行くから。そして
「君を手にする」
消えた空をトーマはいつまでも見上げていた。
地球に再び太陽の光が届く…。
そして、数年後。
新たな冒険の扉が開く−−−−−−−−
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セイバーズ未来偽造。ＤＷに続く設定かなぁって書いてて思った（笑）トーマサが思ったより書けなかった…かなしい…。次はまたタケルと大輔絡ませようかな。
20070119
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