悲しみの中で…





　まさかそんなことになるなんて…
　大の見せる背中が痛々しい。実際泣いてはいないけれど。心が泣いている。
「大…」
　少しでも戦力を温存しておくため皆は眠りについている。今は二人きりだ。トーマは大を優しく抱きしめた。
「ト…マぁ！」
　関を切って嗚咽する大に、トーマは抱きしめることしか出来ない自分に苛立ちと、不甲斐なさを感じた。いくら天才だともてはやされても、今の大を慰める術さえ知らない。
「大…」
　父親と和解した今ならわかる。父の大きさを。
　妹を守るために大と戦わなければならなかったときに感じた、大切な人と戦わなければならない苦しみを。
「救おう、大門博士を」
「トーマ…？」
　涙で塗れたグラスグリーンの瞳がトーマを写す。
　これ以上綺麗な魂を悲しませたくないから。
「本当の大門博士ならこのようなこと決して望んでいない」
　濡れる頬を唇で拭いながら囁く。
　今まで聞いてきた大門英という人物なら決して片方の消滅など望みはしない。彼は心から二つの世界の共存を望んでいた。だからこそ彼は家族を残し、デジタルワールドに一人残り模索していたのだ。その中でつかんだ情報、向かった先イグドラシルで何かが起こった。でなければ一介の人間がイグドラシルの意志となるはずがない。
　倉田側に落ちていたからこそわかる。イグドラシルで何かが起こっている。
「サンキュー、トーマ」
　もう涙は見せない。でも不安な心はまだ残っているのが、掴む手から伝わってくる。
「お願いだ、トーマ…」
　顔を真っ赤にしながらもまっすぐ射抜く瞳に何度胸をときめかせただろうか。
　何があろうとも変わりはしない。誰にも分かつこともできない。
「Ich liebe dich、Masaru」
　唇を重ね、その身を抱きしめた。


　二つの世界の存亡をかけた戦いはもうすぐ。



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大は父を追ってたので、かわいそうですよ。見てるこちらは萌えますが（苦笑）トーマがね、息子さんをボクに下さいって言えなくて可愛そうですね（爆笑）ドイツ語はネット辞典で調べました。あってるかどうかはよく分からないです、すいません。ドイツ語分かる方突っ込みはこそっとお願いします（苦笑）
20070114