始まり
「太一先輩！」
大輔が泣きそうな顔をしながら太一とヤマトを交互に見やった。
「なんて面してんだ」
太一は大輔の頭に手を乗せて、くしゃりと髪をかいた。
「ここはお前たちがこれから守っていくんだぞ？」
ヤマトはこれ以上ないくらい優しい笑みを浮かべた。
だが、その顔を見るのも最後だと思うと大輔も賢はどうしても笑顔を向けることが出来ない。
太一、ヤマトは青龍の地位を大輔、賢に与え、未開拓の地である玄武へと移りその地位を継ぐ事に決めた。
青龍の地は今は安定している。他の朱雀と白虎の地も新たな力を得てやっと安定してきたところだった。しかし玄武の地はいまだ荒廃していて新しい力も生まれないまま。このままでは四方の調和が狂ってしまい、再び闇に襲われるとも限らない。
四聖獣は話し合いの結果、聖なる力を多く持つ民が生まれる青龍の地から選出する事にきめた。そして選ばれたのが太一とヤマトだった。
「でも不安です。僕たちはヤマトさんたちのような力はありません…」
「何言ってる、このジョグレスコンビが」
「ここを守っていくのは、なにもお前たちだけじゃないだろう？」
大輔の後ろにはタケルが、そして賢の後ろには遼が立ち、不安にゆれる互いのパートナーの肩に手を置いた。
太一とヤマトの力は強大だ。かつての戦いで培われたものとはいえ、それだけではここまで互いが互いを高めあう関係までいかなかっただろう。
全ては過去の歴史から未来の夢まで続く永久回帰。彼らの生は常に定められたロープの上を辿る運命にあるのだ。何度逆らおうとも決して逃れる事は出来ない悲しみの星を背負っている。
少しでも力になりたいと、未来を切り開きたいと。常に側で見ていたタケルと、そしてここにはいないヒカリはいつでも思っていたけれど。
「兄さん」
「行ってくる。何また逢えるさ」
しかしその願いはもう叶う事はないだろう。会えたとしてもその時は二人の死を意味するのだから。
「後はお前たちに任せる」
「チンロンモン、あと頼むな」
空をうねるように、蒼き龍のデジモン…チンロンモンはその瞳をゆっくりと閉じた。
『お前たちが守ってきた世界…そしてお前たちが選んだ青龍だ。安心して行くがいい』
太一とヤマトは顔を見合わせ、そしてチンロンモンへと向けると大きく頷いた。
『そろそろいいかの？』
背に大樹を生やし、ヘビのような二つ首を持った巨大デジモンがおっとりと話す。
「チェンウーモン。行こう」
別の地へ移動するには、一度聖地へ入らなければならない。
だから選ばれし者、青龍を継いだ大輔と賢、そして異例だがそのパートナーであるタケルと遼しか入ることはできない。
他の皆とは入り口で別れを告げた。
反対をする者、涙を見せる者。色々あったがそれでも最後には笑顔で見送ってくれた。
最初生まれ育ったこの場所から離れることに抵抗がなかった訳ではない。だが必要とされているのだ。
自分たちの存在意義。それは二人が嫌と言うほどわかっていた。
かつては冒険だけで済んだ学生時代。夢もあったけれど。
選んだ事に悔いはない。
「行こう、太一」
「おう！新たなる世界へ！そして俺達の未来へ！」
二人は新たなる門を潜るのだった。
2006.6.10