月の生まれる場所
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ユーフェミアからスザクへ
「ありがとうございました〜」
カランカランと音が鳴り、中から二人の男女が出てくる。
ピンクの髪がフワリと舞った。
「お目当ての物が買えてよかったですわね」
振り返り、にっこり微笑めば、相手は心からの笑顔で返してくれる。
「はい、色々とありがとうございました…」
人懐っこい大きな瞳は今は顔をほぼ半分覆ったサングラスによって隠されている。
いい意味でも悪い意味でも彼は有名人だった。
そして女の子の方も。
「ユフィ」
なにやら困っているスザクに声を掛けたのはユーフェミアからだった。
宝石店を探しているのだけれど、店を知らないスザクは途方に暮れていたのだ。所属する上司なり同僚なり聞ければよかったのだが、思いついたのが直前の上にこの出動騒ぎで聞きそびれてしまったのだという。
いつも笑顔のはずのスザクが困った顔をしている事に気づくのは早かった。
「大切な人にプレゼントを送りたいんですけど、こういった店が分からなくて…」
名誉ブリタニア人と言えど、一等兵だったスザクにとって租界の店など知る筈もなく。
「大事な…人？」
好きだと告白したユーフェミア。スザクも返してくれたけれど、意味は大きく違っていたのだ。
照れたように頬を掻きながら答えたスザクの表情は、年相応の照れを見せながらもとても穏やかで幸せそうで。
「はい。すましていて意地っ張りで。でもとても優しくて…。僕を支えてくれる唯一の人です」
のろけかと言わんばかりの甘いセリフに、さすがのユーフェミアも絶句してしまったほどだ。
でもそれだけでユーフェミアは分かってしまった。スザクの好きな人が誰なのか。
自分ではとてもそんな表情をさせることなど出来ないと悟ってしまった。
本当は、ユーフェミアとしては誕生日当日一緒に過ごしたかったのだけれど。
困った顔も好きだけど、笑った顔の方がもっと好きだから。
「ルルーシュをよろしくね」
相手まで見破られているとは思っていなかったのだろう焦ったスザクが袋を落としそうになるが、慌てて掴み直す。
「ユっユフィ！？」
「これでもあなたの主人ですよ？」
皇女が一言命じれば、スザクの行動など筒抜けだ。でもそれでは対等ではないと思うから。
これはスザクの経歴、この地で死亡したはずの義母兄の存在。繋ぎ合わせればユーフェミアにでもピースを嵌める事など簡単に出来る。
初恋は実らないという。でもまさか二度目の恋も実らないとは。
それでも二人を知るからこそ、好きだからこそ悔しい気持ちでいっぱいになる。
「あの…っ！」
スザクが焦るのも分かる。ここで二人の生存が明らかになれば、それは大騒ぎになるだろう。何も彼らの思いを無視してまで公にしたいわけでは無いのだから。
「私は何も出来ないの。動けば二人の今の世界を壊してしまう恐れがあるもの。穏やかに暮らせればそれに越したことはありません」
助けることも手を差し伸べることさえ出来なかった７年前の自分。今だからこそ出来ることで二人を支えたい。
「ありがとうございます」
深々頭を下げたスザクにユーフェミアは笑顔を向けた。
「わかってますわ。も〜貴方は私の専属騎士なのに！」
スザクが自分のだと主張できる唯一の、しかし絶対的効力のある繋がり。
しかし、スザクとルルーシュは違うのだ。もっと深いところで繋がっている運命の相手。
「ルルーシュはとっても優しいの。でも自分のことは疎かで、無茶ばっかり。私たちが心配してるのも気づかず」
「はい」
「だから幸せになって欲しいの」
「はい」
家族に注がれた愛情。それを皆にも分けてあげたい。
人は誰でも幸福になる権利を持っているから。
姉の溢れんばかりの深い愛情を受け、心優しき姫君は成長してさらに慈愛の心を身につけた。
「約束してね」
「…イエス、ユア、ハイネス」
さすがに街中で片足を付けて礼をするようなマネはしなかったけれど、それだけで十分だった。
「明日は一日オフです。楽しんできてね」
そう言って、ユーフェミアはバッグから小さなプレゼントをスザクへ差し出した。
「ユフィ？」
「私からの誕生日プレゼントです。受け取ってください」
想像するに多分ルルーシュは一番に渡したいはずだ。何せ想い人との７年越しの再会なのだから。
だからこれはちょっとした意地悪。焼き餅くらい良いだろう。それはスザクと、ルルーシュに対しての…。
「ぜひ感想を聞かせてくださいね！」
「え、あ…はい」
中身を見て驚く様が想像付いて楽しみなユーフェミアだった。
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Ｃ.Ｃ.からスザクへ
あれはどこにしまっただろうかと、ぶつぶつ言いながらルルーシュは室内を慌ただしく動き回る。
ベッドの上でピザを頬張りながら金の瞳がその姿を追いかける。
ルルーシュのベッドの主と化しているＣ.Ｃ.が、リビングにあったカレンダーに目立つように赤で丸つけされていたのに気づいたのは７月に入ってからだが、印はもっと前から付けていたのだろう。
何かと思えば。
『スザク誕生日』だそうだ。
数日前からルルーシュは隠れ家でも気も漫ろで、戦いの最中では一応抑えているものの、抜けることが多々あり何度窘めたことだろうか。
この兄妹…特に兄にとって唯一の心許せる存在。８年前の二人を知るからこそ、笑いが込み上げる。
黒の騎士団のトップとして名を馳せるゼロ…ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。
その宿敵・ＫＭＦランスロットのエースパイロットは皮肉にも幼馴染でありルルーシュの唯一の人…枢木スザクだった。
心を許すはずの二人は敵同士として互いの前に立ちはだかる。
面白いように転がる二人の生き様。
この先二人はどんなロンドを繰り広げてくれるのだろうか。
一本の赤い糸は、年を重ねるごとに複雑に絡まりあい、二人をがちがちに縛り上げる。
世界に、運命に愛された哀れな子供達。
そんな二人の生き様は、彼女にとって面白いおもちゃにしかすぎない。
長い時を生きてきたＣ.Ｃ.にとってつまらないことほど面白くないものはない。ルルーシュは格好のネタなのだ。
「何だＣ.Ｃ.、その気持ち悪い笑いは。それよりいい加減ベッドで食べるなと何度言えば分かる！」
「お前も諦めない奴だな。それよりも良いのか？私に構ってる暇は無いはずだろう。時間は待ってはくれんぞ」
夏を迎えるこの時期、明け方４時はかなり明るい。
「ちっ」
嫌そうな顔をしながら、やっとのことで見つかった資料を持ってルルーシュは部屋を出ていった。向かう先はキッチンだ。
Ｃ.Ｃ.は見送りながらクスリと笑った。
「健気なことだ」
食べ終わった箱をそのままに、ルルーシュのクローゼットから勝手に服を引っ張り出して着替えると台所を覗いた。
シンプルなエプロンを纏い、レシピを見ながら料理するルルーシュは、まだＣ.Ｃ.の姿に気づかない。
時折鼻歌交じりも聞こえることから、相当浮かれているのだろう。一体何処の乙女なんだか。
《親友》の意味を本当に知っているのだろうかと甚だ疑問に思うＣ.Ｃ.である。それは何もルルーシュに限ってのことではないのだが。
「本当に飽きんぞ、お前らは」
約束の時間までまだあるが、それでも彼の中では一昨日の戦闘はイレギュラーだったろう。本当は事後処理ももう少し掛かるはずだったのだ。それをルルーシュはその優秀な頭脳と巧みの話術で団員を操りクリアさせた。
準備に余念がないのはルルーシュらしいが、それ以上に伴う気迫はいぢらしいを通り越して滑稽だ。
相手は軍属。いつかは戦わなければならない相手に何をと呆れもするが、それが今のルルーシュの原動力の一つならば見ぬ振りをするだけだ。
ただし。
「今回だけだがな」
このご時世だ、来年などありはしないのだから。
小さく呟かれた声にやっとＣ.Ｃ.に気づいたルルーシュは、その格好を見て怪訝に眉をひそめた。
「何処へ行く？」
「アジトに居る。今日は帰らん。それが私からあの男への誕生日プレゼントだ、感謝しろよ」
「殊更な心がけだな」
見下した態度は父親譲り。本人に言えば激怒するだろうが。
「あぁそれと、セックスは程ほどにして置けよ。お前は体力が無いんだからな」
「なっ…！」
顔を真っ赤にさせ口をパクパクさせるルルーシュに、Ｃ.Ｃ.は満足して踵を返す。
「帰ってきたら赤飯でも炊いてやろう」
からかいを存分に含んだ意味をルルーシュが理解するまで数秒を要す。叫び声が聞こえるも、既にＣ.Ｃ.は外へ出た後だった。
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セシルからスザクへ
「忘れ物は無いかしら？」
「はい、大丈夫です」
スザクの手には普段から持ち歩いてるナップザックと有名な宝石店のロゴが入った紙袋。
セシルは何となくそれがどういった意味をもつものか想像が付いたが、少年の決意に水を差すことも無いと心の中で留めておく。
近い将来、パートナーを紹介してくれることを楽しみにしつつ。
まだ子供だと思っていた青年は、たった一つ年を取っただけで大きく見えた。
何となく母親のような心境になってしまうのは、まだ短い月日だけど、枢木スザクという人となりを近いところでいつも見てきたことも大きく影響しているのだろう。
命を課して戦う若い命。今日という日を迎えられたことに感謝を。
そうして与えられたプレゼントは休日という名のオフだ。
「明日は昼からテストを行うからそれまでに戻ってくればいいから〜」
ロイドにしては寛大な処置だ。いつもなら時間を惜しんでテストを優先させるのに。
「ユーフェミア皇女殿下から勅命を受けてるからね〜」
何でも無いことのようにあっけらかんと言うロイドだが、いくら皇女殿下の筆頭騎士とは言え、一介の兵士相手にそう簡単に都合よく休みなど与えられるものではない。
その上の、とどのつまりはこの特派を仕切る皇子殿下からも下された労いだと言う事は伝えても良いとは思うのだが、ロイドが駄々をこねるので秘密にしておくことになった。
ロイドのそれは元同級生に対する嫌がらせなのだと、彼の性格が分かるくらいにはその下で働いているから、セシルは苦笑するしかない。
なんだかんだと言われつつも、沢山の人から必要とされているのだ、彼は。
これまで頑張ってきた結果だ。
「すいません…」
ユーフェミアなりに気を回してくれたのだろうと萎縮するスザクにセシルは背中を思いっきり叩いた。それでもこの若い弾力のある肉体には大した攻撃にはなっていないのだが。
「何言ってるの！」
「そうだよ、君はただ上の命令に従ってるだけなんだからね〜」
ただ何かあった時はやはり呼ばれることになるのだが。
それは軍に入ったときから承知のことだろう。
今は何も起こらない事を祈るのみだ。でも何となく思う、直感的なことはそう強くは無いけれど、きっと何事もないだろうと。
「スザク君。楽しんできてね」
「では行ってきます」
まるで擬似家族のようだ。
行ってきます、ただいま。
照れずにいえるようになるまでかなり時間が掛かった。
帰ってこれる場所があると言うのはとても心強い。それは戦場に赴く時でも、何でもない日常の一時でも。
だから今日もセシルは言う。
「行ってらっしゃい」
⇒next》
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…スザク君は皆から愛されてますよ〜と言うのが書きたかった（笑）ということで。次は本命…はすいません、間に合わなかった（汗）
20070710
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