a violent emotion





　それを知ったのは偶然だった。




　学校のテスト休みを利用して、ルルーシュを連れて枢木の別邸でバカンスを楽しんでいた。
　学校という閉鎖された空間で二人きりになれる場所と時間は限られている。
　特にルルーシュは誰かの目があるところでは絶対に側に来てくれないので物足りなかった。
　そんな中で誘った先では二人きり邪魔されることなく。好きなことをして、好きなときに身体を重ねて。一緒にキッチンにたって料理をしたり。自由気まま。
　しかし楽しい時間はあっという間に過ぎ、明日はもう戻らなければならない。今回はお礼にとルルーシュが腕によりをかけてディナーを作ってくれている。
　良い匂いがここまで届き、育ち盛りの身体は素直で、お腹がぐうぐう鳴り出した。
　あと少しで呼びにくるだろうルルーシュを想いながら、お腹が空いたのを紛らわすために、夕暮れ時を読書に勤しんだ。
　ふと書棚の奥に隠されたように置かれた本。気づいたのは何か予感を感じたからかもしれない。
「これは…」
　表紙には何も書かれておらず、多少傷みはあるがそれ程使われていないと思われる。
　パラリと開いて見てみれば。
「え…」
　日記だ。しかも文字はとても見慣れた父のもの。
　例え父とてプライバシーの侵害に当たる。しかし見てはいけないと思いつつも好奇心に勝てなず、頁をめくっていった。
　そこに隠された秘密。
「そんな…」
　心臓の鼓動が早鐘を打って、周りの音が消えていく。
　もしここに書かれていることが真実なら、自分はとんでもない罪を犯したことになる。
「俺…は…」
　驚愕に目を見開き動くことすら出来ない。何も考えることが、出来ない。
　だから、ルルーシュが入ってきたことにも気づかなかった。
　肩に手を置かれ、ビクリと反応を返す。
「ズザク、夕飯できたぞ…どうした？」
　冷や水を浴びせられたようだった。
　顔を見られたくなくてルルーシュを抱きしめる。
「どうした？ちょっと…スザク」
　電気を点けていなくて良かった。窓から入る夕焼けは影を作り出してくれたから気づかれる事は無いだろう。
「お腹空きすぎて…さ、早く行こう♪」
　そっと日記を引き出しに隠し、ルルーシュの腰に手を当てて部屋を出た。



　せっかくの最後の夜だったのに。
　
　一瞬にして闇に落とされた。







　真実を確かめる為にも、スザクは父親のいる本家へと向かった。
　今日は仕事は無い事は確認済みだ、父の所在を教えてもらい、真っ直ぐ書斎へ向かった。
「学校はどうだ、スザク」
「変わりません。勉強して。運動して。友達と遊んで」
「お前も変わらんな」
　淡々とした物言いに、父親は苦笑を漏らす。
　昔から可愛げが無い少年だった。父親の背景も影響してか、人に傅かれて常に上にいる立場だったため尚更だった。しかしその中で齎された光は心の支えであり、唯一外界との接点でもあったのだ。それが。
「書斎に隠されていた日記を読みました」
　ピクリ、と指が反応する。
「どういうことですか？」
「…書いてある通りだ」
　隠す気は無いのだろう。まるで開き直ったかのように見える。そこはやはり血の繋がった父親だろう。
「僕とルルーシュが…兄弟だなんて…」
　知りたくなかった。
　しかし知ってしまったからには後戻りは出来ない。
「なぜ、教えてくれなかったんですか」
「教えるつもりはなかった」
　そうして、ゲンブは遠い過去に身を馳せた。


　妻とうまく行かない日が続いた中で、長期の海外出張が入ったため、その時既にスザクがお腹の中に居たことすら当人でさえ気づいていなかったのだ。
　偶然にも出会ったルルーシュの母親は、相手方の通訳件秘書で、目を瞠るほど美しい人だった。しかし美しいだけでなく接していくうちに彼女の素晴らしさ、芯の強さに惹かれていき、恋に落ちる

のも時間の問題だった。
　ゲンブは彼女を欲した。しかし彼女はゲンブを想いゲンブの妻を想い頑なに身体を開こうとはしなかった。
　好きだから手に入れたい。その欲求は帰国が近づくにつれ強くなっていき、ついに。
　しかし彼女は許してくれた。
　夢のような一夜。しかし翌朝目覚めた時彼女のぬくもりは側におらず、サイドテーブルには１枚のメモが。
《愛しています。ずっと…》
　それだけを残して彼女は姿を消した。
　帰国後、枢木のネットワークをフルに使い探し出すのに１５年の歳月を必要とし、しかしその時彼女は冷たい石の下で、残された少年は彼女の面影を強く残しそこに立っていた。
『お父さん…？』
　ゲンブへの想いを胸に彼女は天へ旅立ったのだった。
　一人残された息子を手元に置いておきたいと思うのは父として当然な欲求だった。


「私は彼女に救われた。お前も彼に救われたのではないかね」
　父のことだ、報告くらい受けているだろう。
「そうですね。お陰で俺は人間になれた」
　人として欠けていた感情を彼によって得ることが出来たのだから。
「ルルーシュは何も知らずに育った」
「僕と兄弟だということ、言うつもりはありません。ですから」
　邪魔しないで下さい。


　もう用は無いと屋敷を後にする。自分の肩に掛かっているものを振り払うことは出来ない。それは宿業だからだ。
　それでも押しつぶされそうな弱い心に反吐が出そうになる。
　無性にルルーシュに会いたかった。






　寮ではルルーシュが何時ものようにそこに居てくれた。
「ルルーシュ！」
　暖かい。いい匂いだ。
　こうして抱きしめているのにまるで抱かれているようで、ホッとする。
「どうした、スザク？今日は甘えただな」
　異変に気づいているのだろう、でもルルーシュは何も聞かずただ頭を撫でてくれてた。まるで子供をあやす様な態度で普段なら怒るのだけど、今はそのままにしていた。
　父親に言ったことを受け入れる、入れない以前の問題だ。こんなにもルルーシュの存在は自分の中へ浸透してしまっている。
　何も知らない、いや知らせるわけには行かない。
　唯でさえ禁忌の恋だ。その上兄弟だなんて知ったら優しい彼のことだ、自分を想いルルーシュは離れてしまうだろう。
　そんな事はさせない…。
「ルルーシュ、愛してる」
　驚いたような顔をして、でも笑顔を見せてくれたルルーシュに、兄弟ではなく恋人のキスを送った。

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…ＴＶで時折出てきたゲンブさんとマリアンヌさんが同じようよな場所にいるじゃないですか。ということで深読みしてみました（笑）ＣＬＡＭＰなら同性愛も近親相姦もなんでもござれだしね。最近スザクサイド…。いやん。
20070321