いと小さき君の為に





　お隣の、小さな幼なじみ。
　艶やかな漆黒の髪、引きつける瞳は高貴にして人々を魅了するアメジスト。
　小さいながらもこの美貌だ、将来どんなに綺麗に育つか楽しみと共に不安も感じる。
　年齢にそぐわぬ頭脳を持ち、負けず嫌いでいつも周りを巻き込む。それでも人を惹きつける小さな皇帝・ルルーシュ。
　頑なだった心はこの幼い命に溶かれた。命の尊さ、そして生命の力強さを教えてくれた。

「スザク！大好き！！」
　自分だけに好きだと言葉で体中で表現するルルーシュ。
　小さな君は何時しか唯一の存在となった。
　しかし守るべき愛しき存在は、悲しいかな、己が欲望の対象へと変わっていくのにそう時間は掛からなかった。
　世界中に自慢したい、けれど自分だけのモノにしたい。
　暗い欲求。
　無垢な笑顔の裏側で、どんな艶やかな表情を見せてくれるのだろうか。幼い肢体を蹂躙したい。自分のものにしたい欲求は年々強くなる一方で。
　そんな邪な思いを抱いているなんて、子供の君には夢にも思わないだろう。
　そんな暗い闇を抱えながらも接している自分の手が汚く思っても、離れられない、離せない。
　相手は余りにも幼すぎる。
　いつまで我慢できるのだろうか？

　ぽっかり空いた金曜日の午後。
　誘われるまま隣人宅へ足を踏み入れ日差しに暖められたウッドチェアーに腰を落ち着けた。
　テラスに設置されたウッドテーブルには焼きたてのクッキーとマイセンのティーカップ。ティーコージーを被せたティーポットの中では葉が熱い湯の中で舞い、美味しい紅茶を作り出してる真っ最中。
　ゆったりとした優雅な時間。
　しかし思考は裏切って渦を巻いている。

「いいじゃないですか。両想いなんですし」
　コトリ、と音と共に置かれたティーカップには琥珀の液体がまるで自分の迷いを表すように揺れていた。
　にっこり宣った少女は愛すべき存在と同じ瞳で自分を映す。
　淡い茶の髪は長くゆったりと彼女の身体を覆うほど。
　儚げな四肢、優しい顔立ちに騙されそうになるが、彼女はこれでも名門にして奇才の集まりアッシュフォード学園の副会長を務める。次期会長として筆頭に上がるほどの才女なのだ。
　しかし悲しいかな、やはり彼女も学園の生徒、思考は突拍子もない。
　そして誰よりも、スザクの事を分かってくれる。
　だてに十年以上も幼なじみをやっていない。
「ルルーシュはスザクさんが思っているほど子供ではありませんよ？」
　優雅な手つきでカップに手を伸ばし一口付けた仕草は洗礼されていて、さすが大帝国ブリタニアの皇女だなと思う瞬間である。
　その皇女がなぜこんな日本に滞在しているのかと言えば、ここは彼女の母親、マリアンヌの生家なのだ。
　マリアンヌは自らの力で騎士候まで上り詰めた女傑で世界でも名高く、戦績は計り知れない。現皇帝に見初められ、皇妃となり、ナナリーとルルーシュの２児を設けたが、残念なことに７年前に命を落としてしまった。図られた陰謀に、危険を感じていたマリアンヌは、早いうちから手を打っていたこともあり、ナナリーとルルーシュは、秘密裏に日本へ避難していたため、難を逃れた。
　マリアンヌは高格の際に籍を遠縁にあたるアッシュフォード家に移したため、日本国籍を知るものは極一部だ。だからこそ平穏に暮らせるわけなのだが。

「ナナリー…君仮にも弟を…」
　育ててくれていたのはマリアンヌの両親にして彼女の祖父母。しかし二人は一昨年家族が見守る中、それぞれ息を引き取った。なので現在はナナリーが家事一切を引き受けルルーシュを育てている。
　保護者であるとは思えぬ言動に、スザクは苦笑を禁じえない。
「恋愛は自由ですわ。それにルルーシュはいつもスザクさんが一番ですもの。この先も変わることはありません」
　思いこんだら一直線。
　これは父親の影響が強いのだろう。顔まで似なくて良かったといつもナナリーは言っている。
　学年があがり、触れる世界も広くなりつつある。まるでスポンジが水を含むように知識を蓄えるルルーシュが、この先どんな行動にでるかなんて分かりきっているのだ。
　だからスザクは怖いのだ。
　無知は時には残酷だ。
　好きな子に迫られたら自制が利くはずなんてないのだから。

「ただいま！スザク！！」
　嬉しそうにスザクに飛びついてきたルルーシュは、小さな手でスザクの頬へ手を添えてスザクの唇へと触れるだけのキスを送る。
　何度やっても慣れない他国の挨拶。
　しかしナナリーとして…頬にだが…何とも思わないのは、やはりルルーシュを特別に思っている部分が大きいからだろう。
「まぁルルーシュ、私にはないのですか？」
「ナナリーも。ただいま」
　ちゅっと軽くこちらへ頬へ口づけると、クッキーへと手を伸ばした。
「こら。いけませんよ？ちゃんと手を洗わないと」
「は〜い」
　慌ただしいミニ台風に、二人は苦笑した。
　自由奔放に振る舞うルルーシュに、スザクはどれほど手を焼かされたか。
　しかしそれもスザクにとっては至福の時なのだが。
「まぁ頑張ってくださいな。その代わり最後まで責任は取ってくださいね」
　本国にはルルーシュを可愛がる異母兄姉がたくさんいる。
　ルルーシュを手にするには彼らを攻略しなければならない。
　ルルーシュを悲しませたくないナナリーである。しかし応援はするけれど、それとこれとは話は別である。
「ガンバリマス」
「はい」
　思わず棒読みになってしまったスザクに、ナナリーは笑顔で返事を返した。

　幼き君が、反逆するのは間もなくのこと。
　スザクの試練は続く…？
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…シティ新刊予定の『恋はステキな魔法』はルルサイドなので、予告も交えてスザクバージョン。どうやら黒スザクっぽい。書きやすいみたいです（笑）ルルの反逆は恐ろしい…。こんな小学生はいやだ（笑）
20070310