cradle





　学生と黒の騎士団の両立。二重生活をすると言うことは、１日２４時間しかない限られた時間を有効に使うためには何かを削らなければならないということで。
　つまりは睡眠時間。
　ルルーシュのここ最近の平均睡眠時間は３時間取れれば良い方だった。
「ルルーシュ、無理してない？」
　授業中先生にばれないように眠るのはお手の物だが、自分に対しこれでもかと気を回してくれる幼馴染には流石に少し前から気付かれているようだったが、ついに押えるのも限界に達したのか。今日になってついに動き出した。
「大丈夫だよ」
「君の大丈夫はあてにならないよ」
　スザクも軍の仕事が忙しかったのか、三日ぶりの登校だった。技術部に異動と言っていたのに一体何をやらされているのやら。守秘義務だからと何も教えてくれないけれど、笑顔で隠すスザクだから、ルルーシュの心配事は尽きない。それも相手がスザクだからなのだけれど。
　とにもかくにも他の者なら気付かないことまで感づいてしまうスザクを誤魔化す事など、特に意識が分散している今のルルーシュには出来るはずがなかった。
　無理に立ったせいで立ちくらみを起こす。貧血を起こしているのに気付いたが、気付いたところでどうしようもない。
　そういえばと、薄れる意識の中でここ食事もまともに取っていないことを思い出した。
「ルルーシュ！」
　スザクの悲鳴のような声を最後に、ルルーシュは意識を闇に静めた。



　うっすらと目を開けて、自室でない天井に不思議に思うが、何度かお世話になっている保健室のベッドの上だと気がついた。
　窓から差し込む赤い光に、夕方なのだとルルーシュはぼんやりした頭で思う。
　今日は黒の騎士団の召集はかけていないので自分の動ける時間に行こうと思っていた。やらなければならない事は山ほどあるので早く行けるにこしたことは無いのだけれど。
　頬を擽る跳ねた茶色の髪と、手から伝わる温もりに、身動きすることさえ憚れる。
　幼い時より気を張って、寝ている時もほんの僅かな物音でさえ起きてしまう自分だ、ここまで無防備に寝入ったのは一体何年ぶりだろうか。ここ暫くの睡眠不足はこの数時間で解消されたようで、頭の中がクリアだ。
　昔も、そして今もルルーシュにとってスザクは特別だった。
　不安で泣きたくなる夜、恐怖で震える夜。
　ナナリーを守ることで精一杯だった幼き日、ルルーシュはスザクの腕の中でだけ安心して眠ることができた。
　まさか今でもそうであるとは思っていなかったルルーシュだが。

　疲れた顔してる…

　スザクはほんの僅かだが、目の下に隈をつくっていた。
　自分をここまで運んでそのまま寝入ってしまったのだろう。繋がれた手は多分自分から。優しい彼はそれを離す事もせず、ただ側にいてくれた。
　今日は仕事があると言っていたはずなのに、自分を優先してくれたことが嬉しいだなんて。
　スザクの優しさは罪だ。優しいから勘違いをしてしまう。縋りたくなってしまう。
　共にブリタニアを倒そうと伸ばした手は、しかし彼は取ることはなかった。
　それはルルーシュにとってどんなに辛く悲しいことだったか彼は知らないだろう。

　自分がゼロだと明かしたら、お前はこの手を取ってくれるだろうか？

　もう今更引き返すことなどできはしないのに、甘い夢を見てしまうのは、夕暮れ時の悪魔が見せた幻か。
　再会した当初は前線に出ていたスザクだったが、技術部へ異動したため今は戦場へ出る事はないと言っていた。もし異動が無ければ対峙し命かけて戦うことになっていたかもしれない、その恐怖にすくみ上がる。
　ナナリーが幸せに暮らせる場所を取り戻すため。
　スザクが愛した、かつての美しい日本を取り戻すため。
　自分は修羅の道を突き進む。
　でもほんの少し、今だけは。

　もう少しこのままで…。

　ふいに、寝やすいよう脱がしてくれたのだろう壁にかけてあった上着のポケットから携帯の着信を伝えるバイブ音が聞こえる。多分扇かカレンだろう、暫く震え続けたがついには止まった。
　ルルーシュはそれには目もくれずスザクが起きるまで、飽くることなく寝顔を見つめていた。







　朝から生徒らの視線が痛い。スザクも同様だが、しかし以前のような異端視するような目ではないので知らん振りしていたのだが。
「ルルちゃ〜ん♪」
　ミレイの含み笑いに思わず後ずさる。
「凄かったわよ〜」
　ピラリと見せられた１枚の写真。
「なっ！これっ…！！」
　ばっちりと収められたのは、心配そうな顔をしたスザクと、その腕の中で眠る自分の姿。
　絶好のアングルはニーナだろう。
　奪い取ろうと手を伸ばすが、ミレイ相手に簡単に交わされてしまった。
　スザクが倒れたルルーシュを抱き上げたのだ。
　女の子が一度は夢見るお姫様抱っこで。
　しかもそれなりに長身なルルーシュを軽々と。
　ルルーシュを抱き上げた腕や胸は制服の上からでも分かる位に相当の筋肉がうかがえて、その逞しい体に一部の男子生徒からは羨望と、女子生徒からは熱いまなざしを一心に受けることになったのに、スザク本人が気づいては居ないのはルルーシュのことでいっぱいだったからか、はたまた天然だからか。（いやその両方だろう）
　クラスの女子は悲鳴を上げないよう皆口元を手で覆って必死に堪えた。ひとえに顔を真っ青にしているルルーシュを起さないようにとの配慮である。しかし保健室まで行く間、その姿で廊下を歩いていたのだ。休み時間だったこともあり、沢山の観衆に曝されたのは間違いない。
　ニーナが集計している隠し撮り写真の売り上げデータには、ルルーシュだけでなくスザクも相当な値が付いているのが目の端に見えた。
　せっかく体力が回復したのに、一気に力が削げ落ちる。会長の商売根性に怒る気も失せるというものだ。
「スザクくんの人気もうなぎ上り♪今年の費用は例年以上に潤うわ〜」
　まぁスザクへの嫌がらせの被害が少なくなるならいいか、と。
　ルルーシュは今回だけは目をつぶることにした。




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９話。私も授業中よく寝ていました。寝方が巧いのかバレなかった。むしろ何でテストの点数低いのかって先生に不思議がられたくらい（苦笑）
悲しい戦いを強いられる二人だけど、知らないでいるのは幸福なのか…。
20070117